空間ディスプレイを手がける丹青社は、時代とともに変化する空間のニーズに対応するべく、テクノロジーを活用した演出体験の研究開発に取り組んでいる。その成果発表の場として2023年12月に「超文化祭 2023」を初開催した。CMI センター・空間メディアマーケティング部部長/チーフプロデューサーの内田卓哉氏に自主イベント開催の裏側を聞いた。
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「超文化祭」が目指す人材の成長
CMI センターが主催した「超文化祭」は、イベント開催に欠かせないポイントやアイデアが多く詰まっている。CMI センターは発足から7年で、当初20人ほどだったチームが、現在では67人にまで拡大した。本イベントは「デジタル技術による空間変容の実験」、「オープンイノベーションを目指したアライアンスの推進」、そして「人材育成」を柱として掲げている。従来の枠組みにとらわれず、若手社員が中心となって自主的に何かを生み出す文化を育んできた中で開催に至った「超文化祭」は、これらの実験的な試みを具現化し、社内外にその成果を発表する場として重要な役割を担う。
来場に予約制を採用したことや開催期間の設定にもねらいがある。「今回は多くの人を受け入れることは目指さず、来場者がコンテンツをじっくりと体験できる時間配分を重視しました。また、来場者とスタッフ間の充実したコミュニケーションを図るには、3日間が最適な開催期間だと考えました」(内田氏)。
イベントが生まれたきっかけ
CMIセンターは研究開発活動「自主実践プロジェクト」を2021年からおこなっている。これは若手社員を中心とした体験づくりや演出表現の実験・実証の場であり、2022年はオフィス空間をデジタルで変革することをテーマに、デジタルインタラクティブスポーツゲーム「AIRエアホッケー」を開発した。AIRエアホッケーは丹青社の社内イベントにも活用され、社員間の交流を促進した。
2023年は、研究と活動を一過性のもので終わらせず、継続的な取り組みへと発展させる戦略の一環として、自主イベントの開催を決定した。このイベントは、成果の発表という節目としてだけでなく、次の段階への移行を促すステップとしても機能し、CMIセンターの持続可能な成長とイノベーションの推進に貢献することが期待される。
イベントをつくるプロセス
今回のイベント向けに6つのコンテンツを開発した。8つのチームに分けられた参加メンバーはそれぞれ通常の業務と並行しながら、4月のプロジェクト始動から企画構想、制作、仮組検証、準備、イベント運営まですべて行った。イベントコンセプトである「Palette(パレット)」は、異なる職種や世代が集い、個々の才能やアイデアを混ぜ合わせることにより、CMI センターとしての独自の色彩を創出することを目指している。通常のクライアントワークと異なる自主イベントだからこそ、CMI センターの特徴をより色濃く反映できる。内田氏は「依頼主に迷惑がかからない環境で制作するプロジェクトであるため、失敗を恐れず取り組めたし、これまでパートナー関係がなかった新しい企業にも積極的に声をかけることができました」と振り返る。
頭文字 C、M、I を持つ猫(Cat)、蛾(Moth)、イグアナ(Iguana)の3体のオリジナルキャラクターを一から制作した。平面イラストの作成や3DCG モデリング、3D プリント・組立てまでの全ての工程を CMI センター所属社員が担当。開発の背景には、IP キャラクターを用いた体験設計の需要増加があり、自社 IP の可能性を探るとともに経験と視野を広げることを目的とした。
本社から港南ラボマークスリー[Mk_3]までを案内するオリジナルの AR ナビゲーションアプリ「Walk to Mk_3」を開発。スマートフォンのカメラを使ってユーザーの位置を認識し、AR キャラクターが目的地まで案内する。ユーザーは好きなキャラクターを選び、周辺エリアの面白い情報を学びながら目的地まで誘導される。
40インチモニターを備えた置き型ハーフミラーデバイスにどのようなコンテンツを搭載すれば面白くなるかを探求した。AI や画像認識、アバター、遠隔コミュニケーションなどの技術を組み合わせて開発が行われた。耳の聞こえない社員が開発に携わり、指ジェスチャーによるデバイス制御システム「スマートライト『YU-MO ライト』」を開発。また、遠隔コミュニケーションシステムを活用したアバター接客システムも実装した。
椅子に座った状態で、ヘッドフォンを着用してイマーシブコンテンツを体験する展示。体験中は、聴覚障がい者の聞こえ方を模した「ノイズ音」と BGM が大きな音で流れるため、周囲の声や音が届かない。体験設計、映像制作(3DCG、レンダリング、イラスト、アニメーション制作・グラフィックデザイン)、映像編集までの全工程を CMI センター所属社員が担当している。
怪獣型の特殊スーツ「カワシナン」を使用して、仮想の街でビルを破壊し「清掃」するというコンセプト。プレイヤーはタブレット上で表示されるビルを、歩きながら打撃やビームで破壊し、3分間で可能な限り多くのビルを更地にして高得点を目指す。企画からキャラクターデザイン、解説映像・音声制作までを CMI センターの社員が担当し、アプリ開発と立体音響設計は外部企業と協力した。
イベントに参加した社員の「扉に入る」「扉から出る」動作を撮影し、その映像をリアルタイムでループ映像に変換する参加型メディアアート作品。スタジオで収録するのは社員の仕草やふるまいのみで、それらが集まり「丹青社らしさ」が垣間見られる作品が生まれた。
イベントの成果と今後
今回の開催は、CMI センターにとって多くの成果をもたらした。このイベントを通じて、新しい技術やアイデアが試され、社内の若手人材が育成され、社外のパートナーとの共創の機会が生まれた。また、参加者から直接的なフィードバックを受け取ることで、今後のプロジェクトにおける改善点を明らかにし、新たなアイデアの創出につなげる。当然、今回の展示コンテンツが今後さらに発展し、製品化や事業化に結びつく可能性もある。
イベントの終了は、プロジェクトの完了を意味しない。「超文化祭」を通じて得られた知見や経験は、CMI センターが今後取り組むプロジェクトの貴重な資源となっており、むしろ新たな始まりであるといえよう。