商談成立、ビジネスパートナー発掘など、あらゆるチャンスを生むビジネスイベントの代名詞といえる展示会。テレビCMなどのマスメディアと異なり、絞られたターゲット層に向け強い訴求が期待できる Face to Face のメディアという長所から、展示会は大企業だけでなく、多くの中小企業が参加、出展します。本記事では、展示会出展フローの中でも特に出展担当者の負担が大きくなりやすい出展直前から当日までの動き方のポイントを解説します。
[Contents]
搬入
■展示品の輸送
出品物の展示ブースへの搬入や搬出、据え付けに関する指定期間や時間から考え、展示会場・展示ブースまでの輸送の計画を立てていきます。出品物を展示会の開催に合わせて開発する、または海外へ輸送しなければならない場合は、余裕のあるスケジュールを組むことが重要です。輸送は委託する専門業者と、会場搬出入など予定を細かく打ち合わせをしましょう。
輸送業者には出品物の梱包、海外に出展する場合は国内通関、船積み書類、輸送保険についても一括で手配を依頼するのが一般的です。特に海外への輸送については展示会に慣れている事業者に依頼するのがおすすめです。出品物の梱包や輸送依頼時は、必ず出品物点数や梱包数を担当者がしっかりと確認し、荷物の受け渡しや梱包を開梱し展示品を据付するときも同様に、必ず立会い確認することが大切です。仮に破損や紛失などを発見した場合は事業者に連絡すると同時に、必要があれば保険求償のため手続きを行います。
通常、展示会には主催者が手配した指定輸送業者があらかじめ登録されており、会場内の搬入出は多くの場合、この指定業者を利用することになります。そのため、指定業者以外の輸送業者に依頼する場合は、この指定業者と改めて手続きをとる必要があります。出展者説明会などで配布される出展者マニュアルの搬出入の項目をよく確認しておきましょう。
また、主催者や専門業者にラックや商談席などの計器や備品を借りた場合は、注文した数が来ているかどうか、壊れていないかも確認しておきましょう。
■来場者誘致のためのその他の準備
来場者を自社ブースへ誘導するための仕掛けは、自分たちの出展スペース以外の場所でも行うことができます。例えば、会場には必ず出展者のパンフレットなどを置くボックスやスペースが用意されるほか、場合によってはプレスセンターにも配布資料を置くことができるため、これらをうまく利用しましょう。会場を取材している報道関係者には積極的に働きかけ、展示コンセプトや目玉商品や技術をアピールすることが大切です。加えて、会期中に出展者のプレゼンテーションを企画しているケースも多いため、併せて出展計画に組み込むことで、より高い集客効果を見込めます。
■展示品の陳列に役立つ知識
VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)
出品物の陳列はブースデザイナーまたは担当者の指示、出展担当者とデザイナーの打ち合わせなどにより決定しますが、主にアパレル業界の店舗設計で使われる手法「VMD」の考え方を紹介します。アパレル店舗だけでなく展示会ブースにも応用できるものです。
VMDとは、「Visual Merchandising(ビジュアルマーチャンダイジング)」の略で、バイヤーが商品を見やすく購入しやすい売り場を作るためのルールです。下記4つの要素を包括し、それらを俯瞰でみたのがこの考え方です。
❶ MD(マーチャンダイジング/商品)…商品導入計画
❷ SD(ストアデザイン/環境)…外観・内装・売り場
❸ SP(セールスプロモーション/販売促進)…企画・広告・サイン
❹ MDP(マーチャンダイズプレゼンテーション/情報)…見せ方・売り方
さらに、❹のMDPには、基本となる3つの要素があります。
○ VP(ビジュアルプレゼンテーション)
店舗の顔であり、入り口前のウィンドウやディスプレイ。アイキャッチとして人を引き寄せるための要素。バイヤーが来店するきっかけを作る。
○ PP(ポイントオブセールスプレゼンテーション)
店舗内のフルコーディネートのマネキンや各コーナーのディスプレイ。直接手にとることはできないが、店内を演出する。
○ IP(アイテムプレゼンテーション)
商品が陳列されている、店舗内の大部分を占めるスペース。実際にバイヤーが手にとって比較し、買うことができる。
空間における商品の点数
例えばアパレルショップなら、シーズンによって服の厚みが変化し、値段や客層に応じて店内の商品数は異なります。展示会のブースも同様で、展示ブースに対して商品が少なかったり、逆に多すぎたりしてしまうと、ブースの印象や演出の効果を大きく損なってしまいます。商品数もブースデザインや演出のひとつとして管理しましょう。
ゴールデンゾーン
店舗の棚の中で最もバイヤーから見やすく、手に取りやすい高さの範囲のことです。同じ棚・商品でも、このゴールデンゾーンに置いてある商品はよく消費されるのです。それより少し上の位置が2番目に良い場所であるとされ、次にゴールデンゾーンの少し下、続いて屈んだ位置、最後に手の届かない一番高い位置と続きます。展示会場の場合、一番高い位置はアイキャッチとして使われることもあります。
また、通路の広さやターゲットの性別といった要素のほか、ブースにおいても大きさや形状、位置にもよって変化します。時間があれば実際に自分の足で入り口からブースまで歩いたり、模型を使って見え方を確かめたりして、自分のブースのゴールデンゾーンを確かめましょう。他の性別・身長の人や、ターゲットに近いプロフィールの人に見え方をチェックしてもらうのも効果的でしょう。
当日の動き
会期当日、スタッフは開場より前に自社ブースへ入り、最終的な準備をします。主催者から郵送や説明会などで渡されている出展者用の入場バッジで、出展者はオープン前でも会場内に入ることができます。当日指定の場所で出展者の登録を行い、そこで出展者用のバッジをもらえるケースもあります。アテンドスタッフの打ち合わせ・情報共有、接客マニュアルの復習、商談のスケジュール確認、セミナーを行う場合は進行の確認、出展物の状態やパンフレットのチェックなど最後の確認を行い、本番に備えます。
■万全なアテンド体制構築のポイント
来場者を会場まで誘致するのは主催者の仕事ですが、そこから見込み客や商談相手となりうる人たちを自分のブースに誘致するのは、出展者の仕事です。特にアテンド体制はしっかり固めておくことが重要です。ここでは営業・セールスと技術や調査を担当するスタッフに加え決裁権のある幹部と、明確に役割を分担する体制を作ることがポイントとなります。ブースの構成・出展戦略によっては受付やアテンダントの補助、コンパニオン、デモンストレーションのMCなど、外部スタッフの手が必要になる場合もあります。海外に出展する場合は、通訳や現地事情に詳しいアシスタント、コンサルタントといったスタッフも手配しましょう。環境や企業によっては最小の人数で対応しなければならないケースも少なくないものの、その場合でも商談に向けた準備を事前に細かく行い、必要な情報を完備しておかなければいけません。アテンド計画の7つのポイントを以下に紹介します。
❶ ブースにアテンドするスタッフは、全員会期中の活動目標をそれぞれ設定し、毎日展示会終了後に結果や実績をまとめておく。
❷ 毎日、展示会が始まる朝と終了後の夕方、短いミーティングを行い、当日の予定と目標、結果を報告し問題点を話し合う。問題点は次の日の接客に生かす。
❸ 決めた方法や予定の変更が必要な場合は、全員で確認を行う。
❹ 明るく元気の良い笑顔がある、印象が爽やかなブースを心がける。アテンドスタッフは積極的に対応する。
❺ 面談後や質問を受けた場合は必ず来訪者記録を作成し、名刺を添付しておきフォローアップ用のデータを作成する。
❻ ブースに外部や臨時のスタッフがいる場合、マネジメントレベルのスタッフや責任者が常に全体の勤務状況を把握し、全員が快適に働けるように配慮する。会期中の業務は多忙になるため、全員の士気を維持する工夫や気配りを欠かさない。
❼ 技術・調査担当のスタッフはライバル企業や会場を視察して、新しい製品や技術を含め業界動向の全体を調査する。ブースに手分けして会場視察ができるスタッフがいないときは、初日や最終日の後半、会場オープン後の早い時間帯など来場者が比較的少ないタイミングにブースをアテンダント補助に任せるなどして視察をするとよい。
なお、担当業務が違ってもブースにアテンドするスタッフは、以下の項目については全員理解し共有しておくことが重要です。
❶ 展示品の特色、セールスポイント
❷ 商品の価格及び取引条件
❸ 出展目標
❹ 会社の基本情報
❺ ブースアテンド者の情報(氏名、担当業務、勤務時間、コンタクト先)
❻ 会社としての顧客向けサービスの内容
❼ 自社がおこなったすべての来場者誘致や広報宣伝
❽ 自社が予定しているセミナー・実演などのイベント
■来場者呼び込みのための具体的なテクニック
待機する場所
ブースを作りこんでも出展者の待機する位置が悪ければ、来場者を遠ざけてしまうことになりかねません。来場者は不用意にアテンドする人に捕まりたくないという意識があり、出展者が立っている場所を避ける傾向にあります。そこで、必ず通路際に展示品を設置し、その前に立ってしまわないようにしましょう。通路側の展示品の前はあけておき、来場者が取り付いたら、斜め後ろから声を掛けます。人間は真正面から人が来ると逃げたくなる心理が働き、真後ろから声を掛けられると相手は驚いてしまうのです。そのため、視界の端からそっと入るように声をかけることが大切で、アパレル業界ではマニュアル化されている方法です。
AIDMAの法則を利用した接客
「AIDMA の法則」とは、消費者の心理的プロセスのモデルで、Attention(注意)→ Interest(関心)→Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)の頭文字を並べたものです。消費者がモノを知り、購買行為に至るまでの反応を表しており、多くの場面で活用されています。展示会でも注意を引き、来場者をブース内に呼び入れ、商品を紹介し、商談につなげるというプロセスがあり、購買行為と似た流れがあります。マーケティングやブースデザインの役割と併せて包括的に考えていきましょう。
特に来場者の足の向きや仕草には、行為対象についての心理が表れやすくなっています。段階的に変化していく行動を「AIDMA の法則」に準じて分析し、適切な対応を取ることで効果的な接客ができます。
また、相手のサインを正しく受け取るためには、「自分が何をしたいのか」ではなく、「相手がどう受け止めたか」を基本とします。例えば、誰もがよく使っている「いらっしゃいませ」というあいさつは、実は一方通行です。「こんにちは」のように双方向のやり取りが生まれないからです。さらに、自社のサービスの説明に一所懸命になってしまうあまり、相手の話にまったく耳を傾けられない状態になってしまうことも。この原因は気持ちが相手でなく自分に向かっているからです。出展目的が商談であれば、そのニーズを引き出すことも接客の役割といえます。今一度振り返り、相手が何を目的にどんなものを探しているのか、来場者の望むことに気持ちを向けてAIDMA のサインを読み取ることで、効率的な接客が可能となります。
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セミナー型 | 体験型 | 実演・デモンストレーション型 | シアター型 | パフォーマンス型 |
開発責任者や業界の専門家が専門用語なども交えて詳細を伝える。ほかのプレゼン手法と比べ、長時間展開する場合が多い。集客数よりも集客質を求めたいときに効果を発揮する。 | 実際に来場者に触れてもらい、説明員とマンツーマンで実機を稼働させ、説明する。商品・製品と来場者の距離が近くなるため、展示会後にブログやSNSなどで紹介されやすい。 | プレゼンテーターが実機を操作するタイプ。そのようすを画面に映し、手順や操作方法などを解説しながら順を追って説明していく。体験型よりも多くの人にアピールできる。 | 巨大な映像装置をブースに設置し、凝ったつくりの映像で、物語的に見せる。一方通行の伝達手段であるものの、集客力やメッセージ・イメージの伝達力は高い。 | 対象の商品・製品やサービスをパフォーマンスと結びつけながら見せる演出。集客装置としてプレゼン冒頭に入れ、その後ナレーターによる説明に移行するなど組合せしやすい。 |
撤去
終了時間になったら、最低限の打ち合わせや出品物の確認などを手早く済ませます。そしてブース内にゴミは落ちていないか、また忘れ物はないかなどをチェックし、会場から退出しましょう。特に最終日は、各出展者の撤去後に定められた時間内でディスプレイ業者はブースの撤去を行い、物流業者も機材の搬出などを行わなければいけません。そのため、出展者もなるべく速やかに撤去作業を行う必要があります。多くの場合、出展者の車両は展示ホール内へは入れません。車両に出品物の積み込みを行うときは、手運びまたは台車でホールの外へ搬出作業を行いましょう。出品物や備品の梱包などの作業は、自社の小間内で済ませるようにします。梱包物や荷物は通路に置かず、ほかの出展者や専門業者の通行と作業を妨げないことが大切です。
また、主催者や専門業者に什器や備品を借りた場合は、指定された場所・状態で返却します。会期中に出たゴミは主催者の指示に従って処理します。必ず出展要項やマニュアルに記載されているので、チェックしておきましょう。
展示会では、撤去時に宅配便を受け付けていることがあります。送る荷物の梱包を済ませて、指定場所まで持っていきます。ビジネスセンターを備えている会場で、かつ営業時間内の場合は、そちらの宅配便を利用するのもよいでしょう。
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