[自創空間+]トーガシ・吉田 守克 氏

インタビュー
本記事は2023年5月31日発行の季刊誌『EventBiz』vol.31で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。
トーガシ 代表取締役  吉田 守克 氏(よしだ・もりかつ)
Profile|1982年三井銀行(現 SMBC)入行。1988年三井銀総合研究所を経て1991年㈱東京貸物社(現・トーガシ)入社、社長室に配属。2004年クリード不動産投資顧問㈱を経て、2006年㈱トーガシ社長に就任。現在に至る。2015年東京ディスプレイ協同組合理事長、2019年(一社)日本展示会協会副会長、2021年(一社)日本ディスプレイ業団体連合会会長に就任。趣味はゴルフと読書。座右の銘は 意思あるところには道は開ける(リンカーン大統領)。愛読書は『捨てる習慣』(弘兼憲史)。

金融業からディスプレイ業へ 逆境の中で育まれた強い精神

私は北海道の芦別で生まれ、札幌で育ちました。小樽商科大学ではゴルフ部だったのですが、顧問の先生が元々為替ディーラーをしており、金融関係への就職を強く勧めてきたことから卒業後は三井銀行に就職しました。

生産性本部への出向を経て、三井銀総合研究所の産業調査部で流通や化学、不動産関連の調査を行うことになり、セブン・イレブンの創業者である鈴木敏文さんにインタビューを行ったこともあります。数多くのレポートを世の中に出してきましたが、自分が書いたレポートがどのように経営者の役に立っているのかが見えず、もっとダイレクト感が欲しいと感じることが多々ありました。そんな時に先輩から声をかけられて、東京貸物社(現・トーガシ)に転職することを決めました。31歳のことです。

東京貸物社では社長室副室長のポストに就きましたが、経営方針を巡る社長と私を誘ってくれた社長室長との確執によって先輩は7年で辞めてしまいました。私はその後さらに7年間必死で働きましたが、会社はバブル期に積みあがった借金の返済に追われており、どうにか立て直しの目途がついたのを機に不動産ファンド会社に転職しました。その2年後、当時の増田社長から「帰ってきて欲しい」と頼まれ、私は2006年2月にトーガシに復職し社長に就任しました。

社長になってからは新卒採用に力を入れようと思い、2008年からは毎年採用するようにしています。中途採用者にも優秀な人はいますが、驚くようなポテンシャルを秘めた人材というのは得てして新卒採用者の中から生まれるものだからです。

新しいものを学び受け入れるのが経営 社員にはしっかり自分を持ってほしい

経営者として常に心掛けていることは、新しい技術が世の中にどのような変化をもたらすかを俯瞰することです。若い社員の意見に対し、IT リテラシーが低く「分からない」としか返せないのでは経営者はやっていられません。常に新しいものを勉強し、受け入れる姿勢が大切です。最近では分散型ネットワーク Web3.0(ウェブスリー)に注目していて、これまで GAFAM が独占していたネット上のあらゆる情報を有効活用することで、ディスプレイ業界や展示会業界に革命を起こせるのではないかと考えています。

社員に求めることは「仕事を成長の糧にしてほしい」ということです。そして成長した暁には今の仕事を部下に引き渡し、ワンランク上の仕事をできるようになって欲しいと願っています。特にディスプレイ業界は現場で働くプレイングマネージャーが多いですが、それでは管理者不在組織に陥りかねません。現場はもちろん大切ですが、全体管理をする者がいなくては円滑な仕事はあり得ません。

当然、人間的な魅力も重要な資質です。社員には常にやる気を持ち、正直で誠実に、そしてルールを守りながらもそれが形骸化してしまうようなら打ち破るような“自分”を持って欲しいと伝えています。「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず(立派な人物は人と仲良くするけど安易に迎合しない)」という言葉が示す通り、組織があらぬ方向へ傾きそうな時に歯止めをかけられる存在が必要です。

それと、近年はパワハラやセクハラが何かと問題になりがちですが、根本的な原因はコミュニケーション不足でしょう。尊敬する先輩から厳しく指導されても、誰もパワハラだなんて思いませんよね? 常に社員同士が互いに尊重し合うような、そんな社風を目指しています。

過重労働など課題を乗り越え 健全な業界の発展を目指して

私はこれまで日本ディスプレイ業団体連合会(NDF)会長や日本展示会協会(日展協)副会長も務めてきており、どちらの業界も大きな課題を抱えていると感じています。まず、コロナ禍で大きな人離れがありました。再び人を戻すためにはいくつかの乗り越えなくてはならない壁があります。その1つが深夜労働や過重労働を減らし、働きやすい業界であると認識されることであり、そのためには展示会場の増設・新設が必要です。結局のところ展示会の施工時間が海外に比べ異常にタイトなのは会場スペックが不足していることがボトルネックであり、展示会場の増設・新設を真剣に考えなくてはなりません。

さらに言えば、展示会はいまだ産業として十分に認知されていないのが実態であり、きちんとしたロジックを学べる総合大学や専門学校のような場が必要になってくるでしょう。

ディスプレイ業界に関しては電気・水道・ガスといった生活インフラと同水準の約20万人が従事しており、人々の生活になくてはならない潤いを与える大切なインフラ産業です。そのことを広く認識してもらうため、今後も情報発信に力を入れていきたいと思います。

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