万博ビジネスと向き合うことが、SDGs 達成の補助線になり得るか[昭栄美術・羽山 寛幸 氏]

インタビュー
本記事は2022年8月31日発行の季刊誌『EventBiz』vol.28で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

『EventBiz』vol.28|特集① 大阪・関西万博に備えよ!
大阪・関西万博の開催まで残すところ1,000日を切った。東京五輪に続く日本経済発展の起爆剤として期待されている大阪・関西万博だが、その準備は既に本格化し企業は2025年を視野にさまざまな取組みを開始している。本特集では大阪・関西万博に向けた国や企業の最新動向を追った。

万博を契機としたさまざまなビジネスチャンスの獲得に向けた活動が盛んになる中で、SDGs の取組みを社内外へ表明する企業は増えた。しかし、宣言した内容と実際の活動内容が大きく異なり「SDGs ウォッシュ(うわべだけの SDGs)」を指摘されるケースや社内で SDGs への理解が進まない、浸透しないという課題も表面化した。そういった諸問題をクリアし、第三者認証である ISO 20121(イベントの持続可能性に関する国際標準規格)を取得した昭栄美術の羽山寛幸専務取締役に、企業としての取組み方の本質を聞いた。

Profile

羽山寛幸
昭栄美術 専務取締役

組織として推進することの難しさ

一般的に企業が SDGs を推進した結果得られるメリットとして、企業のイメージアップや投資家、ステークホルダーからの評価などが挙げられる。これらの要素は良くも悪くも強力な外圧として作用しやすく、さらに2030年というタイムリミットがあり、世の中で急速にブーム化してしまった現状では、納得感の有無にかかわらず「SDGs は取り組むべきもの」という認識が生まれやすい。

ひとつの企業という小さなスケールの中でも似た現象は起こり得る。企業が経営戦略と SDGs を整合させ、SDGs への貢献を測るための指針である SDG Compass には① SDGs を 理 解 す る、 ② 優 先 課題を決定する、③目標を設定する、④経営へ統合する、⑤報告とコミュニケーションを行う、という5つのステップが示されている。しかし現実では、トップダウンで社内に呼びかけるものの、一方的な経営層の期待と社員の反応にズレが生じ、強制感が出てしまったがために SDGsが社内で浸透しない問題に直面する企業は少なくない。「誰一人取り残さない」理念を持つ SDGs に取り組むはずが、社員は置き去りという最悪なケースである。それに対する手立てを実際の取り組み事例から探りたい。

昭栄美術の SDGs 推進がスムーズに進み、ISO 20121を取得することができた理由のひとつは「顧客満足よりも従業員の成長に目を向けたこと」だという。羽山氏は「顧客へのサービス向上ばかりに意識が向くと従業員からの理解は得られないし、やらされてると感じると良い仕事はできない。しかし従業員の成長を目的に据えて取り組むことで、社員は自発的に良い仕事をしてくれる。ときには顧客の期待以上のサービスを提供する。その結果、顧客満足度の向上、さらには社会貢献につながる」と話す。創業以来、築き上げてきた「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の企業文化は SDGs に向けた取り組みともうまく馴染んだ。さらに「SDGs 企業」としてのお墨付きを得たことで、直接的なビジネス上のメリットのみならず、社員のモチベーションアップや社員からの自発的な意見が増えるようになったという。それに対するアクションを経営層が速やかに行うことで、社内のコミュニケーションに好循環が生まれている。

SDG Compass(SDG コンパス):SDGs の企業行動指針。企業が SDGs に最大限貢献・実践できるよう5つのステップを示している。作成は GRI(Global Reporting Initiative)、国連グローバル・コンパクト、WBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)。

万博はSDGsの教材

ISO 20121の認知度や注目度はしだいに高まっており、2025年日本国際博覧会協会は、ISO 20121をベースとしたイベントの持続可能性をサポートするためのマネジメントシステム(ESMS: Event ustainability Management System)を組織内に構築する方針を示している。

SDGs 達成への貢献を目指す「大阪・関西万博」はもちろん、昨年開催された「ドバイ国際博覧会(ドバイ万博)」でもサステナビリティはテーマのひとつに位置付けられていた。ドバイ万博を視察した羽山氏は「万博は自国の産業発展を世界に紹介する場、というイメージをなんとなく抱いていたが、実際には人類共通の課題を解決するための策を提唱し、サステナブルな取り組みを積極的に発信する国が多く、ほぼ100%リサイクルできる素材でつくられたパビリオンもあった。万博のメッセージや価値観に触れてみて共感できることも多かったのと同時に、2025年の大阪・関西万博で日本が展示する内容や手法について非常に関心が高まった」と振り返る。

大阪・関西万博は世界的なビッグイベントになることに違いない。ビジネスチャンスとしても魅力的だろう。携わるためには SDGs は無視できないキーワードだ。とはいえ、SDGs を損益で論じるより、昭栄美術のように「教育」を出発点と捉えることの方が、より本質的であり、ビジネスチャンスを掴む上でも近道なのかもしれない。