『EventBiz』vol.28|特集① 大阪・関西万博に備えよ!
大阪・関西万博の開催まで残すところ1,000日を切った。東京五輪に続く日本経済発展の起爆剤として期待されている大阪・関西万博だが、その準備は既に本格化し企業は2025年を視野にさまざまな取組みを開始している。本特集では大阪・関西万博に向けた国や企業の最新動向を追った。
今年6月、映像制作や空間演出を強みとするシンユニティグループに音楽制作や音楽企画を手掛けるプレストーンが加入した。シンユニティグループのタケナカ・長崎英樹専務取締役とプレストーン・近藤剛代表取締役に、イベントの空間演出における音の重要性について聞いた。
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グループ強化の狙い
シンユニティグループはこれまでイベントにおいて、空間演出の可能性を追求してきた。最新機器と技術を積極的に導入し、とりわけイベントのデジタル領域を得意としてきた中で、2019年に空間の施工・装飾を手掛ける東京企画装飾がグループに加入。さらに今年6月に音楽制作を手掛けるプレストーンを招き入れたことで、より盤石な体制でイベント空間のトータルプロデュースに臨むことが可能になった。長崎氏は「イマーシブな(=没入感のある)体験にこだわる上で、音は欠かせない要素だった。新しい演出手法の開発や実験も含めて一緒に取り組める企業を探していた」と振り返る。
プロジェクションマッピングなど、映像がメインコンテンツである空間における音の重要性は、イベントを企画する段階では見過ごされがちで、予算が削られることさえあるという。しかし、それが誤った判断だったことに気付くのは、本番がスタートしてからであったり、SNS 上での反響であったりするため、たいていの場合で手遅れだ。音に対する手抜かりは映像以上に不満の声が集まりやすいという現実もある。「紙芝居のような静止画でも良い音をつけると案外成り立つが、その逆はない。ものすごく作り込まれた映像であってもチープな音をつけてしまうと簡単に台無しになってしまう」(近藤氏)
実際のイベント開催において、主催者と映像演出を手掛ける企業がタッグを組むことは多いが、音の演出への不満が原因で、その関係性を維持できない企業も少なくないのだという。「どの現場でもプロジェクターの明るさと音は妥協しない」と話す長崎氏。今回のグループ強化により空間演出に関わる業務をトータルで受注することが可能になったことで、各分野の連携・連動がより活発になることに加えて、予算配分をグループ内である程度コントロールできるようになったことも、結果的に主催者やイベント参加者の満足度向上に貢献しているといえる。
イマーシブサウンドとは
シンユニティグループは今後、イマーシブサウンド演出に積極的に取り組む構えだ。近藤氏は「イマーシブサウンドは音楽音響表現で最後のフロンティアとなる」というが、その概略は以下の通りである。
イベントが行われるような広い空間ではスピーカーをいくつか設置するが、簡単にいえば、スピーカーの数が増えるほど音の体験性は上がる。つまりモノラルよりもステレオ、ステレオよりもサラウンドの方が音の臨場感を得られる ※ 。また、サラウンドのように聞き手の周りをスピーカーで囲む配置を二次元的な音の広がりとするなら、さらに垂直方向の音を加えることで三次元的な音の環境をつくりだすイマーシブサウンドは、空間全体を包み込む進化した音の表現であるといえる。
没入感を向上させるには、音楽や効果音などが聞こえるであろう位置から聞こえることが重要で、それは極論すれば、ありとあらゆる場所にスピーカーを設置することで実現できるが、実際の現場では別の技術が用いられる。
「チャンネルベース」と「オブジェクトベース」という考え方がある。例えば「5.1ch サラウンド」は、聞き手の正面、右前方、左前方、右後方、左後方の5つのスピーカーと低音用のウーファースピーカー1つで構成され、囲むように配置することにより「動きのある音」を表現できる。チャンネルベースの場合、各出力チャンネル(スピーカー)に対する6種類の音をあらかじめ制作する。各チャンネルの音量などを調整することで、あたかも後方から前方に音が移動するような体験ができる。さらにチャンネル数を「7.1ch」、「9.1ch」と増やすことで、その効果をより高める。一方、オブジェクトベースは音源の三次元的な位置を決め、空間内を音がどのように動くかを設定する。音量や位置情報などのオブジェクトデータを用いて、現場のスピーカーの配置や数に合わせて、リアルタイムに音を処理・制御する仕組みだ。
これらの考え方や手法、技術を組み合わせたり、新たに開発することで、より没入感が得られる体験を追求していくことがグループの狙いだ。