イベントを仕事にするとは?[昭栄美術・櫻井 啓佑 氏]

インタビューイベント職業図鑑
本記事は2022年11月30日発行の季刊誌『EventBiz』vol.29で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

『EventBiz』vol.29|特集 イベント業界で働く 2023
イベントのV字回復が期待される中、多くの企業の頭を悩ませているのが人手不足の問題です。働き方や働き手の考え方が大きく変わりはじめた今、優秀な人材をイベント会社・業界に確保するためにとるべきアクションを考えます。

入社のきっかけ

学生時代は建築を学んだのですが、型通りの図面を描くことに嫌気がさしたんです。同じようなビルや建物を繰り返し造っていくことに対して、「なんの意味があるんだ?」と。そのような時、ライブ会場の設営現場でアルバイトをしていたのですが、演出照明や装飾などの仕事があることに気がつき、ディスプレイ業という職業に興味をもちました。将来、学んできた建築の知識が活かせる仕事かもしれないと意識するようになり、就職活動に臨みました。とはいえ人と接する仕事にも惹かれていたため、ディスプレイ業で急成長している当社の営業職として入社しました。

仕事内容

入社後も建築の勉強を続けたため、営業職4年目に一級建築士の試験に合格しました。営業職では日本中の現場を飛び回り、一つひとつの案件をいろいろなクライアントと一緒にこなしてきた経験を積んできたため、クライアントと接する営業マインドを学ぶことができました。

しかし、自分なりの新たな提案ができるのではないかという挑戦意識もあって、クリエイティブ部門への異動を申請したんです。そうしたら、すんなりと部署異動が叶ったと。営業職からデザイナーへの転身は社内でも珍しく、日々、厳しい上司に鍛えてもらいながら、新たな案件と向き合っています。

今の仕事でたいへんなこと

クライアントの要望は案件毎に違うため、その距離感を保つことがたいへんです。あるお客さんは名刺を集めることをミッションにしているため、より厳しい費用対効果を求めます。この場合は、要望をお聞きしつつも、コストは多少かかるけれども格好の良いデザインにした方が人が集まり、費用対効果も上がることを説明し、裏付けの根拠を見える化しながら理解を得る努力をします。

また、派手な演出や造作物を好むお客さんの場合は、実現できそうな限界をしっかりと示し、その中で好みを探っていきます。設計上、どうしても実現できない図面を描いてしまった場合、施工現場で皆が迷惑することを営業経験者としてよく分かっていますので。

お客さんの要望に応えながら、私も言うべきことを言い、信頼関係をつくりあげていくことはとても大変なことです。けれども、この関係づくりが仕事のやりがいでもあり、結果として喜ばれ、感謝されることもある。これが私のモチベーション・アップにつながっています。

今の仕事でうれしいこと、好きなこと

自分の満足できるディスプレイが完成し、その案件終了時にお客さんから「ありがとう」と言われると、素直にうれしいです。私はデザイナーであってアーティストではないから、クライアントの要望をくみ取りながら、クライアントの想像を超えるものを提案し続けるのが仕事だと考えます。ただ、ブースの絵を描いていれば良いわけではないんです。クリエイティブだからといって自由になんでもできるわけではなく、案件の作業工程からスケジューリングやコストの管理、実現可否のデザインの選定など、やるべきことがたくさんあります。

学生時代は好きなものを好きなように造ることが大切だと思っていましたが、社会人になってお客さんと関わるうちにもまれますから(笑)。できることと、できないこと、その区別が必要です。けれども、お客さんとの距離をとらずに、お互いが納得できるものをつくり上げていくことで、良い仕事につながる。お客さんの満足度が上がると信じて、提案し続けています。

仕事に欠かせないアイテムや考え方

世の中の建築物を一つでも良いから見学するようにしています。街を歩いていても気になるし、有名デザイナーが手掛けた新しい店舗ができたという情報をゲットしたら、遠出することもあります。

また、写真を撮ることも好きなので、外出するときはお気に入りの一眼カメラを持っていって撮影し、ストックしています。たまに仕事でも使えるデザインと出会えますから、建築を観に行くってすごく大事だと思います。

メッセージ ~後輩に伝えたいこと。自分が体験したいこと~

イベント業に携わる以上、イベントを楽しむ人々を裏方として支えていくのが僕らの仕事。この思いと仕事を楽しむ気持ち、あとはやる気と体力で、なんでも乗り越えられるんです。スキルは後からついてくるだろうし、いくらでも現場で学べる環境はそろっていますから、自分の意見を持ち、楽しいことを楽しくやれる、そんな後輩を待ち望んでいます。

実際に私も「東京オリンピック2020」競技場の設営に携わりましたが、学生の頃は漠然としていた世界が現実となり、世界中の人たちが注目する大型イベントに仕事として携わることができた。3年後には大阪万博もありますが、万博というビッグイベントにもぜひ何らかの仕事に関われたらうれしいです。

Profile

昭栄美術
クリエイティブ部 スペースデザイン課 デザイナー 一級建築士
櫻井 啓佑 (さくらい・けいすけ) 氏

タイトルとURLをコピーしました