大阪・関西万博の開催まで残すところ1年を切り、いよいよ全国各地で機運が高まりつつある。そこで今回、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で会場運営プロデューサーを務める石川勝プロデューサーに、これまでの準備状況や2025年に向けた思いを聞いた。 (インタビュー:2024年4月23日)
万博はアジャイル型プロジェクト リアルタイムで変化し、進化する
─石川さんはこれまで万博とどのように関わってきましたか
2005年の愛・地球博ではチーフプロデューサー補佐を務め、愛・地球広場やロボットプロジェクトなどのプロデュースをしました。さらに遡ると、1992年から2001年にかけて計12回開催された地方博覧会である JAPAN EXPO のうち、第7回の「山陰・夢みなと博覧会(鳥取)」と第10回の「北九州博覧祭2001(福岡)」でディレクターを務めたこともあります。
元々万博とは縁が深く、1988年にオーストラリアで開催された「ブリスベン国際レジャー博覧会」ではツアーガイドとして50回以上会場の案内をしました。そのほかにも1998年の「リスボン国際博覧会」や2000年の「ハノーバー国際博覧会」、2010年の「上海国際博覧会」など、チャンスがあれば積極的に参加するようにしています。
─万博について豊富な経験と知見をお持ちの石川さんですが、大阪・関西万博で務める会場運営プロデューサーの役割について教えてください
会場運営は、狭義には来場者サービスや会場管理、来場者輸送などを指しますが、実際にはかなり幅広い領域で大阪・関西万博に関わっています。公式参加や企業参加はもちろん、省庁・自治体参加、「TEAM EXPO 2025」、未来社会ショーケース、ICT、バーチャル万博、広報、営業、ライセンス商品、そしてテーマウィークなども担当しています。
就任直後は基本計画の策定に、続いて各種事業の企画、企業参加プロモート、公式参加対応といった仲間づくりに取り掛かりました。その後、予算等の実施条件に合わせた計画を立て、現在は業務委託先との進捗を支援する制作管理フェーズに入っています。
─大阪・関西万博の全体を見ている石川さんの目から見た、現在の準備状況はいかがでしょう
運営計画に大きな遅れはなく、2025年4月13日の開幕に向けてやるべきことをやっていくといった状況です。これまでの万博でもそうでしたが、国際的な規模のイベントでは物事が予定通りに進むことの方が珍しく、必要に応じて計画を軌道修正する柔軟さも重要になってきます。
開幕後も同様で、万博は壮大なアジャイル型プロジェクトです。誰もがはじめて経験することばかりで、周りとの関係性がダイナミックに変化し、万博自体も半年間という会期の中で日々進化していきます。そういった意味で、開幕直後の大阪・関西万博は100%の姿ではないとも言えるでしょう。
今こそ改めて開催の意義を振り返り 多くの力を束ね世界に誇れる万博へ
─大阪・関西万博の開催まで残すところ1年を切りました。そこでイベント業界にメッセージをお願いします
イベント業界に改めて問いたいのが、「何のために万博を開催するのか?」ということです。世界の万博は大きく変化しています。かつては各国持ち回りの文化祭のようなものでしたが、今日における万博は世界の合意形成のための対話と、投資やアライアンス獲得のための経済交流の場で、開催国に大きなメリットをもたらします。
開催地は博覧会国際事務局(BIE)加盟国による投票で決定されますが、その多くがグローバルサウスに属していて、そういった国々への支援に力を注ぐ新興国が影響力を持つようになっています。現在の日本では大阪・関西万博に対する批判的な意見も見受けられます。自由な意見を言える民主主義の尊さを感じる一方、批判してばかりでは世界に置いて行かれてしまうのではないかという危機感を覚えるのも事実です。なので、「何のために万博を開催するのか?」という原点を今こそ振り返り、イベント業界が顔を上げて前を向き、世界に誇れる万博を一緒に実現させていきましょう。
─今後の意気込みや、2025年に向けた期待をお聞かせください
声を大にして言いたいのが、万博はプロデューサーだけが作るものではないということです。2025年日本国際博覧会協会には日本中の企業、省庁、自治体から出向してきた700人以上の職員がいます。仕事の文化や専門性が全く違う人々が集まり、万博という大部分の人が経験したことのない巨大プロジェクトに取り組んでいるのです。これはもはや、日本社会の縮図と言っても過言ではないでしょう。
そして世界に目を向ければ、公式参加者、出展者、協賛者、受託事業者など何千万人もの人がいます。参加者や出展者は万博という一生に一度の晴れ舞台に立つため、自らを見つめ、伝えたいことを効果的に伝えるため長時間かけて試行錯誤を繰り返しています。事業者もさまざまな制約にぶつかりながら、より良い姿を求めて工夫を重ねてくれています。
このような多くの人々の意思と努力の積み重ねがあって初めて、万博は成り立っているのです。2025年大阪・関西万博の経験は必ず、日本の未来に活かされるでしょう。今を生きる世界中の人の力が結集した万博がつまらないはずがありません。想像を超えるような、ワクワクするものがたくさん生まれると確信しています。