展示会の未来を見据え、変えるべきは何か?[ジールアソシエイツ・永門 大輔 氏]

インタビュー

本記事は2022年10月15日発行の『見本市展示会通信』vol.884で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は執筆当時のものです。

コロナ禍から展示会やイベントは順調に回復し、ベクトルは上向きであることは確かだが、業界の完全復活にはまだ時間がかかるだろう。そのような今だからこそ向き合える問題や見直すべき仕組みもある。今回はジールアソシエイツ・永門大輔社長に、これまで以上に業界が元気になるためのアイデアと自社で実践している取組みについて尋ねた。

Profile

永門 大輔 (ながと・だいすけ)氏

ジールアソシエイツ
代表取締役社長

業界が抱える課題の整理と分析

―昨今の景況感を踏まえて、展示会・イベント業界はどのように変化していく必要がありますか

新型コロナウイルスによって窮地に立たされたことで改めて、世間における業界の認知度をさらに高めていくことの重要性を痛感しました。今後は大阪・関西万博やIR、新たなMICE事業など、われわれが活躍できる明るい未来があるにもかかわらず、人材不足に陥っているのが現状です。

歴史を振り返ると、先人たちの努力によって、われわれの業界は立場を上げてきました。今後はその動きをさらに加速させる必要があります。そのためには、良い人を雇うこと。すなわち業界の宝と呼べる人材を確保することであり、つまるところ給料を上げることでしょう。そして業界全体で教育を進めていく。あらゆる場面で世代交代が進んでいる今こそ、業界としてのあり方を再構築するという発想が必要になるのではないでしょうか。

―以前、本紙で実施した業界アンケート※1では、課題として「人材不足の解消」とともに「労働環境・働き方の改善」を求める声が多く上がりました。特に深夜作業や過密スケジュールに対する切実な意見が集まりました

労働環境の改善は企業が単独で進めづらい問題であるからこそ、業界全体で向き合うべきだと思います。もちろん受注産業である特性から、発注者に対して声を上げづらい側面があることは否定しません。しかしながら、労働環境の改善や働き方改革を進めていかなければならない理由や目的意識をしっかりと持ち、長期的な視点で議論を進めなければ、まもなく到来する大きなビジネスチャンスに対応できなくなります。年々、世の中の職業の数は増えているのに人口は減っている。ならば給料や労働環境の良い仕事や他の業界に優秀な人材が流れてしまうのは必然といえるでしょう。

※1 「見本市展示会通信」第872号(2022年4月15日号)で実施。

働き方に合わせ、仕組みを変える

―自社で行っている給与や働き方に関する取組みを教えてください

新型コロナウイルスの影響で約2年間、休業に近い状態でしたが、リアルがなくなることは絶対にない、Face to Face のイベントは必ず戻ると確信していました。社員に対してもそのビジョンは共有した上で、給料をコロナ前の水準以上にするという目標を掲げました。

具体的には、それまでは夏季と冬季に支払っていた賞与を撤廃し、最も社員の給料が良かった2019年時点の年給を12分割し支払う、いわゆる年俸制に切り替えました。何かが起こると賞与がもらえない状況よりも、社員が先々の生活費を確保でき、不安を拭うことの方が重要であると考えたからです。当然ですがひと月あたりの給料は新入社員であっても、平均的な水準よりも数万円は高くなります。さらにわが社の場合は、それぞれが目標をクリアすることでインセンティブが発生する仕組み。結果として、個人の年収単位で比較しても月給制のときよりも全体的に上がっています。

経営者は社員の収入を少しでも上げる策を講じるべきです。それによって採用は楽になり、優秀な人材も集まる。さらに言うと人材の流出も止められる。ちなみに、わが社の場合は年俸制に変えた途端、離職がぴたりと止まりました。

また、わが社は女性社員の比率が高いため、産休・育休から復帰したときに働ける環境の整備を急ピッチで進めています。例えば、営業の第一線に戻るのではなく、営業のサポート部門として在宅で働けるようにすることなどを想定しています。

―採用面についてはどうでしょう

首都圏以外でも採用することを考えています。デザイナーを例に挙げると、イベントの多くは首都圏で開催されます。つまり、デザイナーとしてイベントに関わりたければ首都圏で働かざるを得ないし、採用も同様。そのため首都圏では美大生や専門学校生の取り合いが起こっていて、その一方で東京から離れた地域で生活したいデザイナーは、イベントの仕事は選べない。非合理的といえます。

しかしながら、そもそもデザイナーと一言で言っても企画が得意だったり、デジタルに強かったり、CG、設計が得意だったりと、適正はそれぞれ異なります。当然、東京には行きたくないがデジタルにめっぽう強いイベント向きのデザイナーもいるわけです。今は棲み分けすることで、どこでもクリエイティブな仕事ができる時代なのだから、例えば企画は東京のデザイナーが担当するが、設計・パースは福岡のデザイナーが担当する、という働き方も可能なのです。それぞれの生活環境や働き方を意識して仕組みを変えていくことは、優秀な人材を確保する策のひとつです。

また各地域には独自の文化やクリエイティブ手法があります。その手法が東京にインプットされることで、より面白いアイデアが生まれるでしょう。

リブランディングとパーパス経営

―ジールアソシエイツはコロナ禍でも迷いなく突き進んでいるように見えました

単に必死だっただけです。優秀な人材を確保するために、自己プロデュースしていかなければ、われわれのような規模の会社は2番手、3番手になってしまいます。今、何がトレンドで、どのように世の中が変わっているのか。常にアンテナを張り、変化・多様化しなければ、先人たちが作ってきた企業に太刀打ちできません。人に面白いと感じてもらえなければ選ばれないのです。

実は4月にコーポレートロゴを変えました。魂のこもったロゴでしたが、世界情勢を鑑み、すぐに変えました。従来のロゴは熱意や熱情を意味する社名の「ZEAL」の頭文字をデザインしたものでしたが、このご時世に「Z」の文字はふさわしくないと考え、新しいロゴはジールの「ジ」を選びました。われわれにとっては意味を込めた大切なロゴであっても、世の中にとってはあまり関係がありません。逆に、周囲からはロゴ変更の経緯やスピード感を評価されることもありました。

わが社はまもなく創立20周年を迎えます。それに向けて現在、改めて企業としてのパーパス(社会的立場・存在意義)は何だろうかと見直している段階です。

―最後に、業界の若手にメッセージをお願いします

この2、3年内に入った人たちは、きっとこの業界の楽しさをまだ知らない状態で、経験の少なさゆえに、成長スピードにおいて諸先輩方に比べて遅れを取っていることは事実です。しかし一方で、様変わりした業界を生き抜く中で、他の先輩たちが持ち得ないセンスを身に付けていることも事実。例えば、わが社の場合は、空間デザインをやりたくて入社したにもかかわらずzone.事業部に配属され、zone.※2をひたすら売った社員がいます。それは先輩たちにはない経験で、いずれ役に立つタイミングが必ずや訪れます。

そういった新しい感覚が業界を次の段階に動かすこともあるでしょう。焦ることなく、のんびり成長していけばいい。彼ら・彼女らの価値観に大いに期待しています。

―ありがとうございました

※2 zone.:新型コロナの影響によるオンラインイベント需要の高まりを受け、2020年にジールアソシエイツが開発したハイブリッドイベントプラットフォーム。