カッコいいだけでなく「入りやすくて忘れられないブース」を作る[クモノデザイン・雲野 一鮮 氏]

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本記事は2019年2月28日発行の季刊誌『EventBiz』vol.14で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

洗練されたブースのデザインには、アート的な美しさだけではなく、人の心理に作用する仕組みが隅々に埋め込まれている。どうしたら人が惹き込まれていくのか、どうしたら人の印象に残るのか。デザインに含まれる「心理学」。ファッション・繊維業界の店舗や空間を中心に幅広くデザインに携わる雲野一鮮氏に、ブースデザインに深く関わる心理作用について伺った。

“ブースをデザインする”とは

雲野 一鮮 氏(クモノデザイン)

デザインと一口に言っても、ファッション、グラフィック、建築、インテリア、ディスプレイ、インダストリアルと領域は多岐にわたり、それぞれに専門家がいる。例えば、同じ空間を創る仕事であっても、建築デザインや店舗デザインと、ポップアップストアや展示会ブースのデザインとでは、性質が大きく異なってくる。

建築の場合、ものづくりに対して時間軸ごとの役割、町の成り立ちや場所性を強く意識し、普遍性のあるデザインが求められる事が多い。それに対して、展示スパンが短くターゲットを限定した、ポップアップストアや展示会のブース、ディスプレイは、デザインそのものが古くなっていくことを前提に、常にリセットしていくという考え方がある。その為、旬・トレンドが全面に出たデザインを意識しなければならない。「私はファッションの空間を数多く手掛けてきましたが、ファッションは生鮮食品とも言えます。鮮度が命で、半年経つと価値が無くなってしまう。同じように、展示会のブースをデザインするにあたっても、今まさに旬であるデザインが求められ、5年、10年先も使えるような普遍性は重要ではないんです」と雲野氏は話す。

特に展示会ブースのデザインでは、ファサードと共に、限られた予算内でいかに他のブースと差別化を図るかを重視する。商品がどんなに良くても集客ができなければ、機会損失となってしまう。商品の魅力や接客力というのも重要ではあるが、来場者に関心を持ってもらい、中まで引き込むまではデザイナーの腕にかかっていると言える。特に東京ビッグサイトのような広い会場では、印象に残らなければビジネスには繋がりにくい。

雲野氏は、昨年12月に青山スパイラルで開催された「IDM TOKYO」で、2年前よりブランディングの顧問を担当するコニカミノルタの協力で、世界初の有機 EL を用いたアートカリグラフィーを発表した。その際にはプロダクトや空間演出と併せて、様々な仕掛けを使った。例えば、現在デザインユニットを組んでいる、アートカリグラファーのヨウコ フラクチュール氏と、メインとなる作品と同じデザインの大判のカードを制作。持ち帰った後も捨てられないようなサイズと厚み、特殊印刷を施した高価な仕上げをして、来場者に配布した。ブースで体験した記憶と手元にあるカードをリンクさせることで、ブースの印象を記憶に残すという狙いがあった。配られたカードを掲げて写真撮影をする来場者は多く、額に入れた写真を送ってくれた人たちもいたそうだ。このように、人々の心に働きかけ、笑顔になれるような工夫が必要といえる。

ファサード:店舗の通路に面している部分のこと。

心理学とデザイン

デザインと心理学は、よく一緒に語られる。雲野氏の有機ELメーカーの例でも、デザインと心の働きが両方使われている。デザインとは問題解決であり、「商品をじっくり見てもらいたい」「ブース内を回遊して欲しい」など与件整理をしながら、人の行動を促すにはどうしたらいいか、VMD や心理学の知見を用いてデザインしていく。次に展示会ブースをデザインする上でも押えておきたい、心理学とデザインに関するいくつかのキーワードを紹介する。出展効果を求めるクライアントにデザインについて説明するとき、このような根拠に則れば、より理解を得やすくなるだろう。