「意外と簡単に取り組める」本気で考えるイベント業界のSDGs[昭栄美術・羽山 寛幸 氏]

インタビューARCHIVE
本記事は2020年11月30日発行の季刊誌『EventBiz』vol.21で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

『EventBiz』vol.21|特集 2021年イベントトレンド予測
新型コロナウイルスの影響から、2020年の春先から早急な変容を求められたMICE業界。現在も感染防止のケアだけでなく、代替案となるオンラインやハイブリッドといった新様式への対応が進んでいる。さらにデジタル・トランスフォーメーション(DX)やニューノーマル体験、SDGsなど、主催者は日々様変わりする社会情勢に対応した変化が求められる。そこで今回は2021年、イベントを開催するうえで押さえておきたいトレンドを紹介。変化に素早く対応した企業事例や、まだイベント業界に浸透しきれていないものの、今後注目が高まるコンテンツを紹介する。

あらゆる業界で話題となっている「SDGs」。2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な社会を目指す17個の大きな目標と169のターゲットだが、この目標達成が世界的に求められている。昨今は企業が「SDGs」に積極的に取り組むことが消費のきっかけになったり、パートナー企業を選ぶ際の決め手になったりする。そこでイベント・展示会業界の中でも先駆けて「SDGs」に取り組んでいる、昭栄美術の羽山寛幸氏に話を聞いた。

以前からの習慣が「SDGs」の取り組みに

─いつからSDGsの取り組みをスタートしたのでしょうか

私たちは木工の工場としてスタートした企業のため、環境に配慮した取り組みはすでに数十年前から行っていました。以前の木工ブースはイベントが終わると捨てていましたが、「職人さんが汗水を流して作ったものが数日でごみになってしまうことがもったいない」、「コストダウンを図りながら無駄を減らしたい」といったような声を拾い上げ、地球環境に配慮して資機材のリユースを進めてきたのですが、これらが脈々と習慣になり、今の「SDGs」の取り組みへとつながっているという訳です。

─17の目標達成のため、どのような取り組みを行っていますか

17の目標のうち、主に7から13番を特に意識しています。7番「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と12番「つくる責任 使う責任」、13番「気候変動に具体的な対策を」のような、持続可能な消費・生産、環境に関する目標に対しての活動は、SDGs が提言される前から行っている活動の要素を特に強く引き継いでいるものです。

イベントで出た廃材はすべて分別して、リサイクル業者へ送り出しているほか、作ったブースやカウンターをもう一度再利用できるように、設計から工夫しています。リースパネルは、カウンター、ボーダーなどあらゆるものを次に使える形で設計をし、加工して現場で組み上げます。時間のない撤去時も、再利用できるように良い状態のままパーツを分割できるようになっています。また、分割したユニットを持ち帰って工場でメンテナンスをすれば、別のイベントでも再利用が可能です。

エネルギーについては太陽光発電を行い、ブースの照明に LED を使用して消費電力の削減を図っているほか、トラックの運行を管理して効率の良い輸送を心がけています。ディスプレイの企画からデザイン・設計、工場での制作、物流、現場の設営・撤去、運営といった一連の工程が自社で完結している昭栄美術だからこそ、さまざまな角度からSDGs に配慮した取り組みができるのだと思います。

マニュアル化と具体的な数値設定で効率化を

─人材や仕事のやりがいに関する取り組みについてはいかがでしょうか

人材の雇用については、外国人の採用や女性が活躍できる環境づくりに努めています。当社ではパートや障がい者の方も働いていますが、誰もが働きやすい仕事環境を整えられるように、さまざまな施策を行っています。雇用を促進し、SDGs の1番と5番にあるような貧困やジェンダーに関する課題の解決を図りつつ、働きがいと経済成長の両立を目指します。

これら施策の例としては、専門的な作業のマニュアル化が挙げられます。基準となる造作・木工の作り方、業務の進め方などのマニュアル化を実現しました。ベテランの社員も若い社員も皆で会話できる場を設け、誰が作業をしても効率よく、クライアントに必ず質の高いものを提供できる方法を話し合い、共有しました。同じものを作っていても、職人さんごとに作業工程が違うことがあります。それぞれ考え抜かれた方法であることは間違いありませんが、新入社員やパートの人材はどのやり方が正しく業務を進めやすいかは判断できません。そのことで効率や生産性が低下し、働く人のモチベーションも下がってしまうこともあります。

とはいえ、基本となるマニュアルがあれば人材育成がしやすくなり、初心者でも専門的なスキルをアップさせ仕事ができるようになります。このように業務の標準化によって、生産性が上がるだけでなく人材不足が解消され、イベント業界の持続にもつながっていくと考えています。

─独自に掲げている目標、ES(イベントサステナビリティ)目標とは、どのようなものでしょうか

ES(イベントサステナビリティ)目標とはSDGsの目標を参考に、昭栄美術としての明確な数値目標を設定し、活動の指針を示したものです。プラスチックの利用量を20%削減することや、年間売り上げの10%はリユース商材や再利用製品を活用すること、高齢者・障害者・女性社員の比率を5%上げることなどを掲げています。毎年、目標に関連する各部署・課ごとに結果を分析し、達成度を計算しています。工場でのクリーンエネルギーの採用や廃材の再利用だけでなく、オフィスでもデスク周りのキャビネットを廃止して無駄なものを持たないようにしたり、劣化しづらい備品を購入して長持ちさせたりといった取り組みを行っています。

社員とクライアント、業界の持続のために

─ 今年の4 月 、イベント・サステナビリティマネジメントシステム(Event Sustainability Management Systems)の国際規格「ISO20121」認証を取得されました

世間の SDGs に対する注目度が急激に高まり、環境や雇用に対する企業としての活動をもっと明確にわかりやすく公開するよう、クライアントに求められるようになりました。環境に配慮したブースで出展していることや SDGs を考慮した施工会社を使っていることは、クライアントにとっても新たなセールスポイントとなり、私たちも営業の PR ポイントとして成立するようになったのです。

このことから、もっと社員が自分たちの取り組みに誇りをもって、対外的に自社を紹介できるようになってほしいと考え、認証を取得するに至りました。ISO 認証は細かい基準があり、厳格に従わなくてはならない印象を抱いている人も多いと思いますが、実際には誤解があります。基準に従うことがすべてではなく、基準があることによって効率よく楽に仕事を進めてくれるものという、価値観の転換が必要です。つまり ISO の認証を取得することは、仕事場の環境改善や社員のやりがいの向上にもつながります。さらに社員のモチベーションが、質の良いサービスを提供することとなり、クライアントやイベントの満足度として還元されていくのではないでしょうか。

─今後のSDGsに対する展望、これからSDGsに取り組もうとしている読者へメッセージをお願いします

SDGs には17個の目標がありますが、意外と簡単に取り組めることがたくさんあります。多くの企業が小さなことから積み上げていくことで、やがて大きな目標達成につながっていくと考えています。今後は企画・運営、デザインの段階から SDGs を考慮し、新しいサービスを提案していきたいです。SDGs に取り組むことは業界を持続させることにもなるため、業界一丸となって取り組んでいかなければなりません。特に展示会・イベント業界の一企業として、これからも率先して持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいきたいと思います。

羽山 寛幸
昭栄美術