異業種から学ぶ、イベント業界のライフ・ワーク・バランスと人材獲得[グリフィン・森本 秀彦 氏]

インタビューイベント職業図鑑
本記事は2022年11月30日発行の季刊誌『EventBiz』vol.29で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

『EventBiz』vol.29|特集 イベント業界で働く 2023
イベントのV字回復が期待される中、多くの企業の頭を悩ませているのが人手不足の問題です。働き方や働き手の考え方が大きく変わりはじめた今、優秀な人材をイベント会社・業界に確保するためにとるべきアクションを考えます。

グリフィンは展示会の出展サポートを行うイベント部門をもつ。しかし主たる業務はシステム開発を手掛ける、いわゆる IT 企業である。イベントと IT 業界にまたがる企業ゆえに、労働環境の改善が進む IT 業界の取り組みはイベント部門にも導入しやすく、優れたライフ・ワーク・バランスを実現している。今回は、執行役員の森本秀彦氏にこれまでの取り組みについて話を聞くことで、イベント業界の労働環境改善と人材獲得のためのヒントをつかみたい。

働きかたを変えるための働きかけ

森本 秀彦
グリフィン 執行役員

─ IT 業界は働く環境の整備が進んでいるようですが

IT 業界もイベント業界と同じく人材難ではあります。しかし今のIT 業界は労働環境の良さをアピールすることで学生を惹きつけ、新卒採用においてもある程度の人数を集めます。当社も毎年約20人の新卒採用を行っています。しかし労働環境が改善されたのは比較的最近の話で、IT 企業でも残業や休日出勤は当たり前という時代はもちろんあり、当社も2010年頃の有給休暇の取得日数は年平均で6日程度でした。振り返ってみると、有給取得率が低いのは「休みを取りたくても、若い社員は上司に申請しづらいから」など、案外ささいな理由だったりするものです。会社側あるいは管理職側から働きかけることで簡単に取得率が上がったことを覚えています。取り組みの翌年には全社員が年平均10日、今では13日程度取得できましたが、決して当社が特別なケースだったとは思いません。

ただ当時は有給休暇の取得日数を増やせても、残業時間を減らすことまでは不可能だと考えていました。ですが実際、長時間の残業はミスやトラブルを招きやすく、心身の不調や離職にもつながりやすい。そのため、長時間残業の問題に対しても着手する必要が出てきたのです。今では過労死ラインは残業80時間/月ともいわれていますが、当時はそれ以上の上限まで設定していました。着手後は原則45時間/月を超えないように努め、超えてしまった場合は翌月に産業医面談を受診することを必須としました。産業医面談でメンタル不調等のサインが見受けられた場合は、産業カウンセラーによるカウンセリングを受ける。その後、安全衛生委員会でフィードバックをもらい、業務内容の改善を行います。そうやって少しずつ残業時間を減らし、今は平均10時間/月程度になりました。面談とカウンセリングを導入してからはメンタル不調になる社員は激減しましたし、退職者が減った結果、定着率も上がりました。

当社では、産業医面談を行うことになると、その担当のマネージャーが安全衛生委員会で説明をしなければならない。部下をきちんと管理できているのか、という目で見られるわけですから、そういった仕組みがある意味抑止力となり、無駄な残業が減る要因になったと考えています。

─仕組みづくりが重要ということですね。とはいえ、労働時間を減らすことで直接的に労働力が低下するのではないでしょうか

取り組みをはじめてから生産性や業績が落ちたかと言われれば、結果的には、そのようなことはありませんでした。思うに、生産性や業績が落ちなかった理由は社員それぞれが責任を持って仕事に取り組んでいるから。有給休暇の取得を増やし、残業時間を減らす取り組みを進めることで、期限内・時間内に終わらせようという意識が生まれたのではないでしょうか。そもそも残業がマンネリ化している職場では定時で帰ろうなんて思いませんからね。社員にとって働く環境を良くするための取り組みなので、社員からの反発もありません。このような場合は特に、もともと悪い労働環境にいた人ほど、変えようという意識は強いように思います。

また長期的な視点も必要です。今や65歳、70歳まで働く時代といわれますが、そのうちの例えば、出産や子育てによって2~3年職場から離れる期間があったとしても、大した問題ではありません。一生働ける会社で、長く定着し活躍してもらうことは、会社と社員、お互いにメリットがあります。

定着率の高い企業に人材は集まる

─働く環境を改善する中で、はじめやすい取り組みは何でしょうか

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