本質的なサステナビリティ・イベントの実践[アイランダーサミット石垣]

インタビュー
本記事は2023年11月30日発行の季刊誌『EventBiz』vol.33で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

『EventBiz』vol.33|特集② イベントを進化させるヒトとモノ
本企画ではイベント業界における革新的なアイデアやテクノロジーを紹介します。

2019年から毎年、沖縄県・石垣島で開催し、国内外からさまざまな分野の専門家が集まる「アイランダーサミット石垣」は、常に今のイベントの在り方を模索し、変化を続けるユニークな事例である。事務局長の前野伸幸氏(ホットスケープ代表取締役)にこれまでの振り返りとサステナブルな MICE を継続開催するためのポイントを聞いた。

目次

プロボノ型で持続可能なサミット

「アイランダーサミット石垣」の目的は“島目線”で世界の環境を考えることである。環境問題という世界的に大きな問題を身近な問題に置き換えるというねらいがある。前野氏は「石垣島が抱える問題は実は、石垣島だけの問題ではありません。サンゴ礁の白化や漂流ゴミの環境問題を、石垣島という箱庭の中で考えることがコンセプトであり、開催のきっかけです」と話す。

沖縄県・石垣市が主催した第1回目は内閣府や国連世界観光機関(UNWTO)が後援につき、同様の課題を抱えていたハワイ・カウアイ島やインドネシア・バリ島、イタリア・サルデーニャ島とも連携し成功裏に終えた。会場施設を必ずしも必要としない、浜辺や森といった自然環境の中での MICE の在り方を示した。また石垣島という観光資源の豊富な開催地である一方で、遠方からの参加が難しい参加者にも対応できるよう、コロナ禍以前のイベントには珍しく、ハイブリッド開催形式を採用した。

2回目のアイランダーサミットは、コロナ禍のためオンラインで開催した。この年から主催は民間企業を含む実行委員会制とし、継続開催可能なサミットへと舵を切った。継続開催を考える上で、マネタイズは言うまでもなく重要な要素である。それゆえ集客を強化しスポンサーを募る形式が取られることが多いが、同サミットはスポンサーを集めていない。いわゆる「持ち出し」で成立させてしまう特殊性がこのイベントにはあり、そのポイントは「プロボノ型」であるという。

プロボノとは、各専門家が社会貢献のために自らの知識や技術を無償提供するボランティア活動であり、アイランダーサミットはその実践の場であるということだ。その理念に共感する企業や個人が集まり、そこで登壇者や関係者らの新たなコミュニティーを築く。そのため専門家が自分自身の費用や時間、労力をかけてでも参加したいと感じられるような仕組みづくりにこそ、大きな価値がある。「登壇者や関係者自身が、アゴ・アシ・マクラ(食事代・交通費・宿泊費)を負担してくれているからこそ、協賛金を集めなくとも継続的な開催が実現できる。自分でリスクを背負ってでも参加してくれる意思の強い人が集まっています」(前野氏)。回数を重ねるごとにその輪は広がり、オランダ王国大使館から小学生まで、多くの協力者が集まるサミットへと成長した。

自分の心と環境を理解し成長する

今年は11月2日から5日までの4日間で開催された。今年は「Inner Development Goals(IDGs)」をテーマに掲げ、社会的な課題解決の原動力の根本にある内面的な成長、精神的な健康、信頼関係の構築など、インナーデベロップメントの大切さを見つめ直すことを目的とした。地球環境の変動や AI、離島経済、循環型社会などさまざまな課題に対して、一人ひとりが考える機会を設けた。

貧困や飢餓、健康、環境保全などの国際的な社会課題に対処するための17の目標を設定する SDGs に対して、IDGs は個々の内面的な成長や個人の心の健康に焦点を当てた目標を設定する。社会や環境に対する持続可能な発展と、個々の心の持続可能な発展という目的こそ異なるものの、IDGs は SDGs と対立する概念ではなく、相補的な関係にあるといえる。「例えば、地球規模で“海をきれいにしよう”と考えると難しいですが、石垣島の目の前にある海をきれいにしようと考えることでジブンゴト化できます。浜辺のゴミ拾いの体験プログラムを通じて、ペットボトルをポイ捨てしたことがもたらす影響に気付くことができるのです。その気付きによって変化が起こる。スモールチェンジの重要性を私たちは訴え続けています」(前野氏)。

また今年から、プロボノ型かつ多様性のある運営を目指すべく「ソーシャル・プロデューサー制」を導入した。島目線で社会的な課題解決に取り組みたい参加者自らがプロデューサーとなり、トークセッションのテーマ設定から企画、キャスティング、プロジェクトの実行まで行った。

食・音楽・二拠点生活・観光・デジタルそして自分らしさの追求など、どのセッションもそれぞれの立場から熱い議論が交わされた。またダイアログだけにとどまらず、翌日には西表島モデルツアーにも参加。西表野生生物保護センターでの生物多様性の学び、イリオモテヤマネコの抑制柵の補修やビーチクリーンの体験も実施した。

今回で5回目となるアイランダーサミットは、参加者らの同窓会の雰囲気を保ちながら、そのコミュニティーを拡大し続けている。IDGs は個人の心の健康や内面的成長に焦点を当てる考え方ゆえに、数値目標の設定や外部からの効果の測定は難しい。それだけに、イベントが継続的に開催されているという事実自体が、参加者からの評価を物語っているといえよう。

前野 伸幸
アイランダーサミット石垣 事務局長
ホットスケープ 代表取締役
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