ドバイ国際博覧会 会場視察レポート(寄稿)[丹青社・加納 弘之]

寄稿レポート

本記事は2022年4月1日発行の『見本市展示会通信』vol.871で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は執筆当時のものです。

2021年11月15日から12月1日までの約2週間、ドバイに出張し、「2020年ドバイ国際博覧会」(以下、「ドバイ万博」という)に出展している参加国のパビリオンを数多く訪問した。

ドバイ万博概要

会場メインエントランス

コロナ禍で1年間の開催延期を余儀なくされたドバイ万博は、2021年10月から2022年3月までの半年間開催されている。オミクロン株が猛威を振るい始めた昨年12月時点における総来場者数は800万人強とのことで、会場内にひしめく魅力的なパビリオンの数々から考えると少し寂しい数字に感じる。

ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)においてアブダビ(首都)に次ぐ規模の首長国で、石油ではなく金融をベースに発展してきた。ビルとして世界一の高さを誇るブルジュ・ハリファなど大型プロジェクトを次々と実現し、観光都市としての地位を揺るぎないものとしてきた中で、MEASA(中東・アフリカ・南アジア)地域では初開催となる登録博(5年ごと開催の大規模博覧会)のホストシティとなった。

気温が高くなる日中を避けて、日没以降のアクティビティがビジネス・レジャーともに活発なお国柄もあり、万博会場も平日は深夜0時まで、週末(イスラム圏なので金・土)は深夜2時まで開いている。会場内各施設も日没後の照明、LEDモニターやプロジェクターを用い、賑やかに演出されていて、日中の視察だけでは気付かない見どころが多い。

アル・ワスル・プラザ

アル・ワスル・プラザ(昼)
アル・ワスル・プラザ(夜)

日中と日没後で異なる体験を提供してくれる施設の筆頭が、メインエントランスを抜けた正面にそびえるドーム状のモニュメント、アル・ワスル・プラザである。直径150m、高さ65mの圧倒的な存在感を誇る建造物で、ドバイ万博のロゴ(同国内の砂漠で発掘され、同地が古来通商における要衝であったことを示す、古代遺物の黄金のリングをかたどったもの)が、このドームの意匠にも用いられている。アラビア語で「つなぐ」という意味のある「アル・ワスル」の名を冠したドームは、3つのテーマ(Sustainability, Opportunity, Mobility)に沿って分けられた、438ヘクタールの広大な敷地内の各エリアをつなぐハブにもなっている。

内壁には252台のChristie社製高輝度レーザープロジェクターが設置されており、日没後はドーム全体が360°プロジェクションマッピングシアターとなる。ムービングライトやPAスピーカーも多数備え、迫力のある映像・音響演出が展開される。ドバイの空、海、砂漠といった風土をモチーフにした映像コンテンツが没入感たっぷりに投影されるほか、万博に関する最新のニュース映像や、スポンサー企業のプロモーションが流れる時間帯もあり、巨大建造物でありながらメディアでもあるというユニークな存在の可能性を示している。

テーマパビリオン

テーマパビリオン(モビリティ館 展示)

Sustainability, Opportunity, Mobilityに分かれた3つのエリアには、それぞれのテーマに沿ったパビリオンが配置されている。サステナビリティ館は建築の屋根全体が太陽光発電パネルで覆われ、館内展示では大量生産・大量消費の生活様式を続けていくと森林や海洋にどのようなダメージを与えてしまうかを、ディストピア風に見せることで、来場者に持続可能な社会の実現に向けてのパラダイムシフトを促す。オポチュニティ館では、環境改善に大きなインパクトを持つ「小さな変化」の実例を紹介し、よりよい未来を築くための主人公となることを来場者の一人一人に期待する内容が展開される。

モビリティ館は、カリフォルニアのApple本社(Apple Park)を手掛けた英国の設計会社、Foster + Partnersによる美しい流線型のデザインが印象的。館内では人類の発展と密接に結びついたモビリティの変遷と、これから期待される未来の変化を体験できる。14世紀に中東イスラム圏、アフリカ、東ヨーロッパ、アジアまでを巡り、旅行記を残したイブン・バットゥータなどの偉人が9mの高さの胸像で紹介されているのだが、普通の人間の10倍近いそのサイズに似つかわしくないリアリティを備えた表現に目を瞠る。ハリウッドでも活躍する特殊造形のスペシャリストである、ニュージーランドのWeta Workshopが造り上げた巨大なフィギュアは今にも動いたり喋ったりしそうで、細部に目を凝らしても「ニセモノ感」が全くない。展示後半では最新の映像機器を用いて、流行りのメタバースなどの仮想空間における「モビリティ」も紹介されているが、非現実的なまでに巨大な胸像が備え持つ「リアルさ」の方が印象に残るという人も多いのでは。

日本館

日本館/提供:2020年ドバイ国際博覧会日本館

電通ライブが総合プロデュース、丹青社とムラヤマのコンソーシアムが展示内装・演出工事を担当した日本館は、常時2時間待ちの人気パビリオンとなっており、海外のサイトやブログでも、「朝10時の開場と同時に真っ先に駆けつけるべきパビリオン」と紹介されていたりする。(1月より完全予約制)

体験開始に先立って渡されるスマホを用いた、来場者ごとの位置情報に基づくインタラクティブ演出が特徴的。スマホにつながれた有線イヤホンは、オープンタイプの特殊な製品で、外の音も聞こえるため、スマホからの音声と会場内スピーカーからの音声による多層的な表現が可能になっている。

日本館(展示)/撮影:Jon Wallis Photography
日本館(ミニチュア展示)/撮影:Jon Wallis Photography

外国人来場者にとって特に印象的なのは、田中達也氏によるミニチュア展示だったようで、現地でも「あれは日本らしくてクール」という評価が多く聞こえてきた。抒情的に紹介される歴史・文化や、世界が抱える課題を解決するためのイノベーションやアイデアを生み出すための考え方の紹介など、「日本を知りたい」という強い動機を持った来場者にとって、満足感の高い体験が提供されている。

出口には2025年の大阪・関西万博を会場模型とプロジェクションマッピングで紹介するコーナーがあり、「次の大阪にもぜひ行かなくては」と笑顔で語る来場者が多かった。

日本館を訪れた来場者(他の国のパビリオンスタッフなど)からは「ショップ」を設置してほしいとの要望もあった。日本館に併設された「スシロー」は大人気で、食事と共にお土産にも需要があることを知り、まだメイドインジャパンに心躍るカスタマーが世界中にいるのだという思いを強くした。

UAE館

UAE館

ホスト国UAEのパビリオンの建築は、スペインのアーキテクト、サンティアゴ・カラトラバによるデザイン。UAEの国鳥であるファルコン(ハヤブサ)をイメージした外観は、翼の羽が開くダイナミックな演出で(開閉ともに所要時間は3分程度)、外から眺めるだけでも貴重な経験を得られると言える。白一色の清廉な建築の美しさを損なわないよう、夜間の照明演出も、動きはあるものの、色温度の高い白色光源しか使っていない。

入場の際に番号が記載された整理券を渡され、自分の番号が案内されるまでは屋外展示でUAEの文化、特に砂漠の過酷な環境の中で生活するための工夫などを学ぶ。屋内展示は地階からスタートして、UAEの風土や歴史、および1971年に連邦国として新生する様子を紹介している。200席あるメインショーのシアターでは、カーブした内壁に投影される手書き風の温かみのあるアニメーションを眺めていると、視界が少しずつ変化していることに気付く。なんと客席全体が丸ごと上昇していて、シアターを出るとそこは1Fのアトリウム。驚嘆の連続で来場者を楽しませる構成にホスト国の矜持を感じる。

サウジアラビア館

サウジアラビア館

大地から生まれ出て、未来に向かって成長することを表現したダイナミックな建築が目を引くサウジアラビア館も、ホスト国UAEと並んで中東の雄としての威信をパビリオン全体で示している。建築の形状に沿って進む形で、片側からエスカレーターで昇りながら同国の歴史(過去)を特殊造作とプロジェクションマッピングの演出で眺め、上階の展示ホールの壁面LEDおよび床にくりぬかれたプロジェクター投影面で展開される社会・経済の様子から「現在」を知り、反対側からまたエスカレーターで下りながら「未来」に向けてイメージする姿を目の当たりにする。最後の空間で展開される映像体験は、圧倒的だが言葉で説明するのが難しく、万博来場者が期待する「驚き」を紛れもなく提供している。ちなみにこちらが日本人と気付いた若い運営スタッフのイブラヒムさんは、流暢な日本語でパビリオンを隅々まで案内してくれた。日本のアニメ好きが高じて日本語を習得してしまったそうだが、彼と同様に日本語を操るスタッフが他に3人いるという。ドバイ万博のサウジ館に日本語を話す運営スタッフが4人。他の言語も推して知るべし。全方位のホスピタリティに感服する。

最後に

天井から伸びるロボットアームと生身の人間が織りなすパフォーマンスに息を呑むカザフスタン館のメインショーなど、ご紹介したいパビリオンはまだまだたくさんあるが、紙幅の都合で諦めざるを得ない。参加国パビリオンだけでなく、エミレーツ航空などの企業パビリオンも充実した展示内容で素晴らしかった。語るべきストーリーと最新展示技術(ソフト・ハードとも)の結び付け方など、2025年の大阪でどのように進化した姿を見せてくれるか、今から楽しみでならない。

加納 弘之

丹青社 企画開発センター 海外推進室

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