『EventBiz』vol.20|特集① 日本MICE回復へ
春先から新型コロナウイルスの猛威により大打撃を受けたMICE 産業。緊急事態宣言解除から、経済回復の重要性が叫ばれ、MICE も今夏から段階的に復活した。これまでのような開催は難しく、変革を迫られるなか、MICE 回復に向け新たな企画や対策に取り組むイベントや主催者の動きを追う。
日本のイベントが姿を消してから約4か月がたった。感染拡大防止のガイドラインや対策案が講じられ、少しずつではあるものの再開の兆しが見えてきた。新型コロナウイルスの影響で振り回された日本経済の立て直しのためにも、1件でも多くの MICE が開催することへ期待を込めて、ここでは新型コロナウイルスによって大きな影響を受けたイベント産業の半年を振り返る。
キャンセルか決行か さまよう 2 月
2020年2月当初、世界保健機構(WHO)は強い警告を出しておらず、厚労省も「新型コロナウイルス感染症は、わが国において現在、流行が認められている状況ではない」とメッセージを発していた。しかし中国・武漢での状況が大きく報道されるようになった第2週に入ると社会の緊迫感と危機意識が急激に高まる。
展示会では海外からの出展キャンセルが急増、さらに国内来場者の減少がはじまった。すでに海外の大型展示会は相次いで中止を表明していたが、日本は諸外国よりも多少遅れて中止・延期の表明ラッシュに入った。イベントでは小規模コンサートの中止が出始めたほか、プロ野球では応援ジェット風船の使用禁止やオープン戦が無観客試合になるなど、主催者は感染拡大防止に向けた対策を始めた。
大規模イベントの中止が少なかった上旬だが、中旬になると開催の意向を示していたイベントに変化が出る。カメラ見本市「CP + 2020」や、「国技館5000人の第九コンサート」が開催中止を発表。3月1日に開催予定だった「東京マラソン2020」も一般ランナーの参加を取りやめ、招待選手などのエリートランナーのみで開催することが発表された。
そして25日、政府は「対策基本方針」を発表し、翌26日には安倍晋三首相が「スポーツや文化イベントについて、今後2週間は中止や延期、規模縮小の対応を要請する」と表明。これにより、翌月のみならず5月、6月という数か月先のイベントも中止・延期を決め始めた。
25日にサッカーの J リーグは3月15日までに予定していた全ての公式戦94試合の開催延期を発表、国内の主要プロスポーツ界で初めての延期措置だった。さらに人気グループ「Perfume」のコンサート主催者も26日、同日夕方から東京ドームで開演を予定していたコンサートの中止を発表した。
一方で「東京事変」が29日と3月1日に東京国際フォーラムで予定していたライブを行うと発表。このころから、アーティストがイベントキャンセルの難しさについて SNS などを通じての発信が目立つようになる。アイドルグループをプロデュースする元 SKE48の指原莉乃氏がテレビ番組で新型コロナによるコンサート中止は興行保険の適用外で、大損害になることを訴えて議論が活発化した。
イベント業界団体の訴え強まる
このキャンセルの急増に伴い、イベント主催者への会場費の返金問題が懸念されたが、理解ある自治体と会場担当者は、キャンセル料の全額もしくは相当額の返金対応を実施した。会場から主催者、主催者からイベントサポート企業や展示会出展企業というフローが進み、イベント関連企業の倒産ラッシュは避けられた。
しかしイベントの開催自粛は留まることがなく、「楽天ファッションウィーク東京」、「第92回選抜高校野球大会」、大型展示会「FOODEX JAPAN 2020」などが相次いで中止、また国際会議誘致貢献賞を受賞した「INORMS 2020年世界大会」も延期を発表した。併せて各業界は新型コロナへの対策や業界団体としての姿勢を示し始める。プロ野球を統括する日本野球機構(NPB)とサッカーの J リーグは3月2日、異例となる協力体制で「新型コロナウイルス対策連絡会議」設立を発表。4日には日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会も3者で「エンターテインメントを愛する皆さんへ」と題した共同声明を発表した。
国内感染者が増加するなか、3月10日には政府が「緊急事態宣言」を可能とする方針を出すと、4月以降のイベント中止・延期が加速された。しかし感染拡大防止のため開催を中止するか、経済的大打撃を受けるかの板挟みとなったイベント業界にとって開催の判断は容易ではない。イベント中止の判断を主催者にゆだねる政府の「自粛を要請」という姿勢は混乱を生んだ。格闘技イベント「K-1 WORLD GP」は開催の是非についてメディアや著名人を巻き込んでの議論が交わされ、結果として22日にさいたまスーパーアリーナで強行開催したが、その後、28日の東京・後楽園ホールで開催した大会は無観客で行った。
イベント業界では自粛に伴う業界への支援を求め、政府への要望の動きが見られるようになる。日本展示会協会の浜田憲尚会長(マイナビ専務取締役)は3月10日、自由民主党「展示会産業議員連盟」の甘利明会長、経済産業省の藤木俊光商務・サービス審議官を訪問し「新型コロナウイルス感染症の展示会産業への影響と支援策」と題した要望書を提出。日本コンベンション協会も17日に「新型コロナウイルス感染症により、MICE 業界が受けている影響とそれに対する支援策の要望」を取りまとめ、観光庁へ提出した。
3月24日、安倍首相が出席したイベント・展示会および金融業界を対象とした「第5回新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリング」では日展協の浜田会長や、日本ディスプレイ業団体連合会の渡辺勝会長(乃村工藝社代表取締役会長)のほか、コンサートプロモーターズ協会の中西健夫会長(ディスクガレージホールディングス代表取締役)、矢内廣・ぴあ代表取締役社長などが参加。出席者からは新型コロナウイルスによる大幅な減収が見込まれることから、延期・中止を決断したイベント主催者に対し補償など、支援を求める要望がされた。
さらに同日、国際オリンピック委員会(IOC)が東京オリンピック・パラリンピックの1年延期を正式に決定。30日には、東京オリンピック・パラリンピックの会期が2021年7月23日から9月5日までの日程で開催されることが決まった。これにより、主催者は会場利用制限の期日再設定や展示会会期の変更を余儀なくされることになった。展示会産業は新型コロナウイルスの感染拡大と東京五輪の延期というダブルショックを受け、苦しい局面に立たされた。3月27日には、5月3日~6日に開催を予定していた同人誌即売会「コミックマーケット98」開催中止が発表された。
4月7日、政府は「緊急事態宣言」を発令。5月6日までの外出自粛規制や展示会などの大型イベントの開催自粛が要請された。この結果、多くの国民がソーシャルディスタンスと外出自粛を受け入れ、自宅待機の機運が高まった。そのため、3月から7月半ばまで、日本のあらゆるジャンルのイベントが姿を消した。イベントが国内から消えたことによって、サポート企業の活動も大きく制限され、イベント関連企業の休業が相次いだ。またリアルイベントの開催が制限されたことで、イベント業界では「オンラインイベント」や「オンライン展示会」などの対応策が模索され、それに合わせた WEB システムなどが散見されるようになった。