未来のイベントデザインを支えるデータ活用[フジヤ]

インタビュー
本記事は2023年11月30日発行の季刊誌『EventBiz』vol.33で掲載した内容をWEB版記事として転載および再編集したものです。掲載されている内容や出演者の所属企業名、肩書等は取材当時のものです。

『EventBiz』vol.33|特集② イベントを進化させるヒトとモノ
本企画ではイベント業界における革新的なアイデアやテクノロジーを紹介します。

イベントや展示会空間のトータルプロデュースを手掛けるフジヤは、リアルとオンラインを“一気通貫”する来場者管理システム「ツーカン」を展開している。第1イベントコミュニケーション事業本部の佐々木大輔氏と目黒耕平氏に話を聞いた。

目次

来場者行動とマーケティング

(L)佐々木 大輔 氏|第 1イベントコミュニケーション事業本部 セールスプロモーション事業部 デジタルプロモーション室 課長
(R)目黒 耕平 氏|事業統括本部 第 1イベントコミュニケーション事業本部 セールスプロモーション事業部 デジタルプロモーション室 ディレクター

ツーカンの基本機能はシンプルで、来場者が発行した QR コードを読み取るというものだが、主催者はリアルタイムで来場者情報の把握と集計が可能で、開催中もデータを活用できる点が強みである。佐々木氏は「開発当初は、コロナ禍のイベント会場内の人流把握を目的としていたため、リアルタイム性を重視していたのですが、マーケティングにも活用できる発展性があると考えました」と振り返る。

例えば、入場ゲートに QR コードリーダーを設置すれば来場時間が分かり、退場ゲートに設置すれば会場内の滞在時間が分かる。またセミナー会場や各ポイントに設置しておけば、来場者の行動を知ることもできる。「特定の来場者が来場したタイミングで、主催者側に通知させることもできます」(目黒氏)。ツーカンはネットワーク接続された QR コードリーダーを利用することで、リアルタイムでのデータ活用を実現している。端末記録型の QR コードリーダーは扱いやすいものの、後日、取得したデータと名刺情報を紐づける必要があるため、データ納品がイベント終了後から時間が経ってしまうケースもある。「となると、ただちに来場者へのお礼メールを送ることができません。データ取得のリアルタイム性は利用者からの要望も多く、特にプライベートショーや期間限定のポップアップショップで評価されています」(佐々木氏)。

採用される主な理由は「会場施工とシステム対応の両方をフジヤが一手に担えるようになったことで、主催者の手間を大幅に削減できること」(目黒氏)だという。ツーカンは利用者に寄り添うサービスとして、幅広いカスタマイズ性をもつことも特徴だ。オプション機能には「アンケート」「メール配信」「セミナー・商談予約」などがある。アンケートはウェブ上もしくはイベント会場内で QR コードを読み込ませて実施でき、もちろん来場者情報と回答内容をリアルタイムで紐づけることも可能だ。

またセミナー・商談予約機能は、開催形式に合わせてカスタマイズできる。その自由度の高さから、アンケート機能のみや予約機能のみ利用する企業もある。

フジヤのスペースメディア戦略

目黒氏は「既存のイベント形態においては、来場者管理システムがもともと意図しない使用方法を要求されることも多いです。それらをイベント用にカスタマイズするには大きな手間がかかります」と話す。とはいえ、イベントをシステムに合わせて開催するのは本末転倒であろう。また実際には企業が自らイベントを立案・主催し、わざわざ会場を借り、プライベートショーを開くケースも多いため、カスタマイズ可能なシステムが好まれる傾向にあると目黒氏は分析する。

ツーカンは現在、来場者管理データベースとして活用されているが、今後はデータ蓄積の手法をまとめ、イベントのテーマ決定や商品開発、新規事業への応用など、幅広いサポートを目指す。展示会などのイベントが商談やお披露目の場を超えて、実質的なデータ収集の手段としても活用されている現状から、佐々木氏はイベントスペースをメディアのひとつとして見るべきだと考える。オンラインの利便性を経験した後でも、人々はリアルなイベントへの参加意欲を失ったわけではなく、むしろイベント参加の目的や活動を再考するきっかけになっている。出展企業はそれぞれに異なる戦略を持っており、収集したデータの利用方法も多様化している。「蓄積されてきたデータをもとにブースや展示空間のデザインが進化するかもしれません。例えば、来場者への接客の仕方として、長期間のショールームにおいてはコスト面から接客のオートメーション化や無人化が、ニーズによっては効果的な可能性もあります」(佐々木氏)。コロナ禍を経て、リアルイベントが回復してきた現在、イベントの主催者や来場者、サービスプロバイダーを含む全ての関係者は、イベントへの関わり方について新しい視点での考察を求められている。

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