【寄稿】ポストコロナ、イベント体験はどう変わるか ー苦難を超えて進化に挑戦ー[丹青社・佐野 勇人]

寄稿
「東京ゲームショウ2022」会場のようす

2022年9月15日、『東京ゲームショウ2022(TGS)』がオープンを迎えた。実に3年ぶりのリアル開催となった本イベント、感染症対策のため人数の制限を行いながらも、会場には4日間で13万人を超える来場者(公式HP発表より)が訪れた。私自身も長らく展示会・イベント業界にいながら、随分久しぶりの幕張メッセでの現場となり感慨深いものがあった。

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、わずか2-3年の間にイベントのあり方は大きな変化を迫られた。開催そのものの規制を余儀なくされた時期を経て、現在リアルイベントの開催にあたっては収容人数の制限、来場者・関係者に対する体調確認や検査の実施、現場では検温や消毒の実施、会場設計や運営計画にも様々な対策を行うなど、細心の注意が払われている。

コロナ禍によるイベントの最も特徴的な変化は、やはり「オンライン化」ではないだろうか。徐々に広がりを見せていたライブ配信は一気にあらゆる業種・業態に浸透した。新商品の発表会や、ビジネスセミナー(ウェビナーという言葉も当たり前に使われるようになった)から、体験イベントすらもライブ配信を活用し、SNSによる拡散を念頭にした企画が一般化した。また、リアルイベントの開催規制はバーチャルイベントの急拡大を後押しした。冒頭のTGSでもバーチャル会場が併設され、メタバースというトレンドワードとも相まって一層注目が高まっている。

オンライン化によって生み出されたメリットは多い。時間的、距離的な制約で現地に足を運ぶことが叶わなかったとしても、オンラインにアクセスできるデバイスさえあればどこからでも参加できる。またコメント欄やSNSを通じて世界中の参加者と即座に感想を共有し合うこともでき、ネット上にアーカイブされたコンテンツはいつでも見返すことができる。

では、終わりの見えないコロナ禍の影響が続くイベント業界にとって、ライブ配信やバーチャルイベントはリアルの体験に取って代わるものなのか。私自身、リアル開催のイベントの度重なる中止、延期を経て、手探りながらも今までの知見を活かしバーチャルイベントにも取り組んできた。そして少しずつイベントのリアル開催に復活の兆しが見えるようになった今、改めて感じることは、「リアル体験の価値は、より一層高まっている」ということだ。オンライン化によって、現地に行かずとも同じような情報が得られ、ネットを通じてあらゆるコンテンツの擬似体験ができるようになった。だからこそリアルな空間でしかできない体験を提供することが求められ、またその体験は他に代え難い魅力となっている。

先日携わった、とあるeスポーツイベントはオンライン配信とリアル観戦のハイブリット型で行われ、数百人のリアル観客と数万人の配信視聴者という構図だった。イベントも終盤、試合の盛り上がりと共に会場の熱気は高まり、観客の盛り上がりも最高潮に達した。「同じ試合を同じ時間に観戦する」という体験でありながら、ライブで視聴するネット上の声はリアル観戦を羨む声であふれていた。プレイヤーと同じ空間を共にして直接声が届く距離で応援するのと、画面を通して見るのでは大きな違いを感じたのであろう。

これまで圧倒的にリアル中心であったイベント体験は、今まさに変化の時を迎えているように思う。コロナ禍収束後もオンラインコミュニケーションのニーズは継続すると確信される。一方、リアルでの体験はより重要視されるだろう。これからは、いかに効果的にリアルとオンラインを組み合わせた体験設計をしていくかが鍵となるのではないか。リアル or バーチャル、オンライン vs オフラインという構図ではなく、双方の強みを改めて見つめ直すことがイベントの可能性を拡げることにつながると信じている。私自身も新たな時代のイベント体験を生み出すべく、これからも新しい挑戦に取り組んでいきたい。

画像提供:集英社ゲームズ

Profile

佐野 勇人 (さの・はやと)氏

丹青社
コミュニケーションスペース事業部
営業統括部
営業1部 3課
課長

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