ピーオーピーでは展示会やイベントに関する企業・団体を対象に、各社と業界の抱える問題とそれらの解決案に関するアンケ―ト調査を行った。30~50代を中心に、25歳以下から60代以上まで102人から回答を得た。寄せられた課題の種類を分類し、集計。これからの時代に向け、展示会・イベント業界全体で行動すべき方針を探る。
展示会・イベント業界の課題に感じていることはなんですか?
コロナ禍への言及はもちろんあるものの、コロナ禍以前から業界内で根強い問題となっている、「労働環境・働き方の改善」 と 「人材不足の解消」 が2トップとなった。労働環境の改善については、施設会場や主催者への夜間の貸出制限や設営・撤去時間の延長を求める声が圧倒的に多く、施工現場の安全の確保という面からも切実な要求であることが見て取れる。また人材の獲得と定着には労働環境の改善が必要であり、労働環境の改善には人手が必要といったように、2つの問題が密接に結びついているとする意見も同様に多数寄せられた。
また、オンライン展示会が普及し、各企業がある程度ツールの使用感の把握や効果測定が終了している時期であることから、オンライン展そのものの活用方法よりも、今後のリアル展示会のメディアとしての価値の見直しや新しいメリットの開発などを課題に感じている関係者が多いという結果に。
「オンライン展示会へデータの活用」は 「コロナ禍で減少した催事・出展者・来場者の復帰」と同率となり、次点で 「環境配慮・SDGsへの対応」、「各業務の適正な価格設定」 と続いている。回答者の業種のおよそ半分以上を 「ディスプレイ/施工」 が占めていることから、無償のコンペティションによる仕事の受注方法を問題視する声が複数見受けられた。ほかにも展示会・イベント業界の認知度の低さが人材不足や業務の価格破壊を招いているといった意見や、会場の不足が労働環境を悪化させているという回答もあった。
経営層・役員、部長・室長、次長・課長クラスが課題に感じていること上位5項目
- 労働環境・働き方の改善(20件)
- 人材不足の解消(17件)
- 展示会・イベントの付加価値創出、マーケティング(11件)
- コロナ禍で減少した催事・出展者・来場者の復帰(7件)
- オンライン展示会、データの活用/各業務の適正な価格設定/展示会・イベント業界の認知度向上(5件)
係長・主任、一般社員クラスが課題に感じていること上位5項目
- 労働環境・働き方の改善(11件)
- 展示会・イベントの付加価値創出、マーケティング(11件)
- 人材不足の解消(9件)
- オンライン展示会、データの活用(6件)
- 環境配慮・SDGsへの対応(5件)
全体の集計結果と同様にどちらも「労働環境・働き方の改善」が課題だと考えている関係者が多い傾向となった。一方で経営者など各業務を取りまとめる立場であるクラスの2位は 「人材不足の解消」、主任や一般社員のクラスは 「展示会・イベントの付加価値創出、マーケティング」 が続いている。
またどちらも 「オンライン展示会、データの活用」 は5位以内となっているものの、「コロナ禍で減少した催事・出展者・来場者の復帰」、「各業務の適正な価格設定」 は経営層・役員~次長・課長クラスのみ、「環境配慮・SDGsへの対応」は係長・主任と一般社員のクラスのみで5位以内となった。
特に 「展示会・イベント業界の認知度向上」 を課題として挙げた回答者は経営層・役員~次長・課長クラスが100%を占めており、今回の回答者に限れば、経営層・役員~次長・課長クラス特有の悩みであるようだ。
展示会・イベント業界の課題、またその課題を解決する案
《労働環境・働き方の改善》
●安全な現場作業を進めるため、大型展示会での設営撤去の時間に余裕が欲しい。深夜作業にならないような作業スケジュールを組んでもらいたい。 〈ディスプレイデザイン/施工 60代以上 経営層・役員〉
●労働条件・環境。基礎案件が多く夜中に設営に入るケースが多い。日中にも睡眠が取れている訳でなく、日中は最終の準備をしてそのまま現場に入る。初日の現場を終えられるまで24時間以上の勤務となる。健康と疲労による事故発生が解決できない。会場側と主催者に理解と余裕のあるスケジュール進行を求めたい。 〈システム装飾/会場設営 60代以上 経営層・役員〉
●働き方改革。深夜スタートの設営スケジュールの常態化。展示会業界だけでは顧客の考え方は変わらないので、施設側も含めた全体的な意識改革が必要だと思います。 〈システム装飾/会場設営 40代 部長・室長〉
●大型施設会場が夜間、深夜の貸出をやめて昼間作業にしないと若手が定着せず、残業削減などの働き方改革も進まない。 〈ディスプレイデザイン/施工 50代 経営層・役員〉
●不規則な勤務時間体制。申請期限や締め切り時間を発注側・受注側とも順守すること。〈ディスプレイデザイン/施工 50代 係長・主任〉
●施工現場や設営に携わるスタッフへの待遇向上が必須と思われる。 〈資材/サイン/印刷 50代 経営層・役員〉
●働き続けることが可能な環境作りなど各社で取り組まれてるかと思いますが、業界としての基準(開催の判断・作業の安全面等)が必要かと考えます。 〈人材/警備/清掃 40代 経営層・役員〉
●人材の確保と勤務時間がそれぞれのイベントや業種によってバラバラであること。早めの必要人数の確定と、人集め~労務管理のスキームの見直し。 〈人材/警備/清掃 40代 部長・室長〉
●搬出時には各社の足車の車両留置きが多く、搬出車両の通行、搬出作業の妨げになっている。会場によっては車輌の通行、留め置きスペースが少なくなってきており、搬入搬出時の車輌通行に時間がかかり、作業時間の遅れやコストアップにつながる。また狭いと危険にもつながる。設営日や撤去日の時間及び日数を増やす(会期最終日の翌日撤去)などの対応が、急務になってきていると思われます。 〈リース/レンタル 40代 経営層・役員〉
●設営時間がどうしても短くなってしまうため、他業種と同時に施工が進む。それにより通常の作業より安全面に対してさらに配慮が必要になり、人日のコストを含め上ってしまうと思います。余裕を持った設営時間がほしい。 〈設備工事(電気・水道・ガスほか) 40代 次長・課長〉
●会場の貸出時間による超過残業。大阪の大型施設会場のように貸出時間を徹底し深夜作業をなくす。 〈設備工事(電気・水道・ガスほか) 50代 部長・室長〉
《人材不足の解消》
●人材の確保、定着が課題。就労条件の大半が低賃金・長時間労働・きつい労働環境という状況下のため必要な人材が不足している。そのため既存社員へ負担増加し、さらにパフォーマンスの低下といった悪循環に陥る。業種によっては専門的知識・技能・技術が求められるため、敬遠されやすいと思われる。負のイメージを払拭する必要があるがそのためには業界全体の働き方改革が必要。 〈ディスプレイデザイン/施工 30代 係長・主任〉
●少子高齢化社会になり、スタッフの人手不足が今後の課題だと感じています。アフターコロナがスタートする時に、日本全体で人手不足になると考えられます。その時にイベント業界に関わるような方々が、どんな想いで業界を支えていくのか不安を感じています。安い時給で集めるには限界があるので、人が動く以上は人件費の高騰は避けれないと思います。「イベントスタッフ」や「イベント警備」は若年層への認知度が低く、18歳や20歳の子では知らないケースが多いです。展示会やイベントに掛かる人の仕事の認知度をもっと上げることは必要不可欠だと思います。裏方が注目を集めるような取り組みが業界全体で必要。 〈人材/警備/清掃 30代 部長・室長〉
●課題:少子化による、来場者、運営スタッフの減少。解決案:少子化対策、イベント規模縮小、運営スタッフのAI化など。 〈その他 30代 一般社員〉
●人材不足。業界の認知度向上を行政に働きかける。特に地方。 〈主催/運営/プロデュース 40代 経営層・役員〉
●職人の高齢化による人手不足の懸念。展示会スケジュールによる深夜作業や休日勤務が多いため、前評判から若手社員が入らない。入っても辞めてしまう。解決策:施工スケジュールや深夜休日作業の改善への取組み。業界全体での賃金引き上げやそれに向けての利益の確保。 〈設備工事(電気・水道・ガスほか) 30代 一般社員〉
《展示会・イベントの付加価値創出、マーケティング》
●展示会に行くにあたっての消費者側へのメリットの追加。現状考えられるメリットは、①見込みの顧客と対面できる、②既存の顧客と関係を構築できる、③認知宣伝効果があるなど。これら以外のメリットの追加は可能なのか? 〈ディスプレイデザイン/施工 26 ~29歳 一般社員〉
●展示PR手法が得意ではない企業にたいしての窓口を開設し有効な出展にしてもらう。そうすることによって展示会全体の活力にもなると思います。 〈ディスプレイデザイン/施工 40代 一般社員〉
●プロモーションメディアとしての価値低下。主催利権、出展効果、来場価値の明確な向上を確立するために、リアルメディアとしての開催促進とデジタル活用連携によるデータベース化。 〈ディスプレイデザイン/施工 60代以上 部長・室長〉
●来場者を基点にした展示会づくり。出展料で成り立っているからと「お客さんは出展者」と考えている主催者が未だにいるのは非常に残念です。主催者として展示会を通じてメッセージを届けたい相手は誰なのか、ターゲットが展示会に訪れる理由は何なのか。展示会に参加しなくても最新情報を得られる来場者に、売上を確保できている出展者に、どう振り向いてもらうのか? きちんとターゲットの行動をデザインする必要があります。 〈主催/運営/プロデュース 30代 係長・主任〉
●アフターコロナを見据えた役割の展示会の再定義。オンラインとのすみ分け、共存。〈ディスプレイデザイン/施工 30代 次長・課長〉
●クライアントや来場者の真の意図をどう汲み取っていくかだと思います。コロナ終息後において、外に出る意味と期待値を上回ることが重要であると感じています。 〈ディスプレイデザイン/施工 ~ 25歳 一般社員〉
●ネット配信の普及よる、会場としての運営の減少。開催方法の模索とコロナとどの様に共存できるか。 〈システム装飾/会場設営 50代 次長・課長〉
●オンライン展示会とリアル展示会のハイブリッド開催のイメージが人によってバラバラなことが課題。 〈ディスプレイデザイン/施工 50代 次長・課長〉
●海外に比べてお金の取れる(お金払って参加する)真剣な商談会になっていない。お金を払っても見たい、聞きたい内容に高めないと世界で負けてしまう。価値があるものには当然の対価を払う世界にしたいと願う。 〈ディスプレイデザイン/施工 50代 次長・課長〉
●コロナ禍でイベント業界も有人からWebに移行している現実があるが、本来の趣旨である、その場での人的交流やリアル感が損なわれている印象を受ける。原点に戻り夢や楽しみに溢れる展示会や、その場に参加することで得られる事柄を増やすといった魅力づくりが必要だと思う。商業化ばかりに傾斜すると、Webで充分との意見が聞こえてくるが、イベントが持ってるポテンシャルが活用されない。 〈輸送・配送 50代 経営層・役員〉
●この業界を業種の分野だけで分類せず、国が主導で展示会を開催していくことが必要。日本の技術や研究を武器として世界に示していく。つまり経済産業省や文化庁等が自ら主導していくことが必要。 〈主催/運営/プロデュース 60代以上 経営層・役員〉
《コロナ禍で減少した催事・出展者・来場者の復帰》
●コロナ禍の収束、または感染者数減少を見込んだ段階的な展示会開催数・規模の回復。〈ディスプレイデザイン/施工 26 ~ 29歳 一般社員〉
●コロナで出展を取りやめ、その後催事が再開しても戻らない出展社が多数いること。〈システム装飾/会場設営 30代 一般社員〉
●コロナが収束した後に以前のように集客できるのか。 〈リース/レンタル 40代 一般社員〉
●コロナの状況。感染症法上の位置付けを危険度が高いウイルスが属する2類から、季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げるべき。人間にとって接触は重要な要素だと思います。 〈ディスプレイデザイン/施工 60代以上 経営層・役員〉
●コロナ禍における人流制限、イベント開催の判断。IT技術によるVRなどの利用。 〈ディスプレイデザイン/施工 50代 次長・課長〉
《オンライン展示会、データの活用》
●リアル展示会での集客をオンライン展示会の誘致へと繋げるのが難しい点。 〈ディスプレイデザイン/施工 26 ~ 29歳 一般社員〉
●ダイレクトマーケティングの重要性の位置不足。開催メリット、成果の可視化が必要。成果の数値化など、開催した結果を明確にできる統一的な指標の確立。 〈ディスプレイデザイン/施工 40代 次長・課長〉
●リアルと配信の環境整備。 〈会場 30代 一般社員〉
●リアルとオンラインのハイブリッド開催、DX化。 〈主催/運営/プロデュース 40代 係長・主任〉
●メタバースなど仮想バーチャル空間が生まれ、リアルなものとの一層の融合が図られれば、時間と空間を超えたもっと大きな市場が生み出されるのではないかと思います。〈ディスプレイデザイン/施工 50代 部長・室長〉
《環境配慮・SDGsへの対応》
●環境への配慮・ゴミの削減。リユース品の品質向上・活性化。 〈ディスプレイデザイン/施工 30代 係長・主任〉
●SDGsへの取組み。リサイクル素材を積極的に取り入れる指標を出す。 〈ディスプレイデザイン/施工 40代 次長・課長〉
●課題:SDGs(特に廃材)。解決案:廃材処理・リサイクル企業との業界規模での連携と、協業環境配慮商材の開発と活用。 〈ディスプレイデザイン/施工 40代 部長・室長〉
《各業務の適正な価格設定》
●適正なコスト負担を伴わない歪なピラミッド構造が、業界全体の人材不足を加速させている。 〈ディスプレイデザイン/施工 50代 経営層・役員〉
●コンペに対する無理なコストダウンのための価格破壊が最も問題と感じます。人件費や原油価格の高騰が懸念される中、いまだにコストダウンを狙ったコンペが開催されている。解決案:企画コンペ方式の場合、コンペ主催者は企画費支払い義務化とする。合い見積もりなど、決まった仕様書がある中で、見積比較をするのみの場合には該当しない考えです。企画費が発生すれば、コンペ開催に対する重みが生まれ、無駄なコンペ開催の防止やより精度の高いコンペ開催につながるでしょう。 〈ディスプレイデザイン/施工 30代 次長・課長〉
●ディスプレイ産業界の価格破壊。業界価格の統一など、産業として団結。 〈ディスプレイデザイン/施工 50代 部長・室長〉
●課題:複数会社に対してのコンペ形式の案件依頼による、リソースの消耗。解決案:制作会社は実績で選んでいただけるブランディング。クライアント側の成果実績の公開許可。コンペ形式を行うのであれば、作業料として最低限コンペフィーを出すルールを制定する。 〈ディスプレイデザイン/施工 30代 係長・主任〉
《展示会・イベント業界の認知度向上》
●日本の経済界において、経済波及効果の大きい「展示会・イベント業界」の認知度向上。 〈会場 50代 部長・室長〉
●業界そのものと、この業界で働く人の必要性と重要性(価値)が世の中に認知されていない。そのため、人材不足が起こっており発展性がない。さらにダンピングが横行し安くて良いものを求められる風土になっているほか、コンペフィーのないコンペも多い。また世代交代がないため、意識・感覚が停滞している。業界、協会などを挙げての提言や業界内外の意識改革・啓蒙を行うべき。 〈ディスプレイデザイン/施工 40代 次長・課長〉
●コロナ禍により従来以上に広いスペースを確保し、密を避けるレイアウトを取ることにより、会場利用料が割高になり運営費がコストアップしている。ただでさえ自粛の影響により業績ダウンの影響を受けている業界の関連企業が負担を強いられているのを、政府が助けてくれないのは、非常に残念でありました(大阪では、一部会場費負担があり、素晴らしいと思いました)。政府・自治体の業界に対する認識・知識不足であると思われ、業界としても政府へ影響を与えるだけの強い力をつけなければならないと思います。 〈リース/レンタル 40代 経営層・役員〉
《就労者の安全意識の向上》《感染対策の確立》《施設会場の不足》
●課題:末端業者の安全意識の向上。解決案:安全教育の徹底。 〈システム装飾/会場設営 30代 係長・主任〉
●展示会施工などにおける安全管理の秩序が不統一。国家有資格の取得会社、会場教育認定会社など法則を設け、認可事業者に制限する。 〈ディスプレイデザイン/施工 50代 部長・室長〉
●ウィズコロナ対策。感染対策の常態化(感染状況に左右されない開催方法、マニュアルの確立)。 〈ディスプレイデザイン/施工 40代 次長・課長〉
●課題:会場面積の不足。会場面積が不足していることにより、会場稼働率が過剰となっている。結果、深夜労働を余儀なくされるなど労働環境が悪くなっており、人材が他業界に流出している。解決案:業界団体から行政等へ会場設立・増床の働きかけ。会場ファンド設立。 〈ディスプレイデザイン/施工 30代 一般社員〉
《その他》
●オーダー(発注)をギリギリのタイミングで行うのが通常となってきている。各社申込期限を設けていると思うが、期限後の発注は金額が発生するなどアナウンスをして、期限厳守の徹底で発注を急がせる。余裕をもって設営の準備をする風習にする必要があると思います。特にコロナ禍では政府要請による急な中止が相次いだため、キャンセルポリシーに慎重になり、出展者と受注業者の間でも受注確定が遅くなっている。〈リース/レンタル 40代 経営層・役員〉
●非常時、災害時に弱い。 〈ディスプレイデザイン/施工 30代 一般社員〉
●インバウンドを含む需要創造と拡大。 〈ディスプレイデザイン/施工 60代以上 経営層・役員〉
●主催者と支援企業との力関係。 〈リース/レンタル 50代 経営層・役員〉
●コロナ禍での部材高騰によるディスプレイ会社内の単価均衡化。 〈ディスプレイデザイン/施工 30代 部長・室長〉
* * * * *
<業種>
主催/運営/プロデュース…8件 ディスプレイ/施工…56件 システム装飾/会場設営…7件 資材/サイン/印刷…1件 映像/音響/照明…2件 リース/レンタル…4件 人材/警備/清掃…7件 輸送・配送…1件 サービス・ツール…1件 設備工事…11件 会場…3件 その他…1件
<役職>
経営層・役員…23件 部長・室長…14件 次長・課長…18件 係長・主任…17件 一般社員…30件
<年齢>
~25歳…3件 26~29歳…8件 30代…29歳 40代…24件 50代…28件 60代以上…10件